請求減額の要素(4)~損益相殺
このページでは、請求が減額される可能性のある要素のひとつである「損益相殺」について解説します。
損益相殺とは
損益相殺とは、交通事故に遭った被害者が、同じ交通事故によって利益を得た場合に、その受けた利益の限度で、賠償額から控除することをいいます。
損益相殺が適用されるものの例
損益相殺が適用されるものの中には、以下のようなものがあります。
受領済みの自賠責損害賠償額等
被害者が賠償金を受け取る際、すでに自賠責から受領した損害賠償額や、政府補償事業によって受け取った填補金は控除されます。
社会保険給付金等
交通事故によって受け取った、国民健康保険法、健康保険法、厚生年金保険法、国民年金法などに基づく種々の社会保険給付金や、給付の確定した労災保険金については、損害賠償金から控除されます。ただし、労災保険金の詳細は、後述します。
所得補償保険
被害者が所得補償保険に加入しており、交通事故によって就業できず、所得補償保険に基づく保険金を受け取った場合には、当該保険金相当額を休業損害の賠償額から控除されると考えられています。
損益相殺が適用されないものの例
他方、以下の項目については、損益相殺は適用されないと考えられています。
生命保険金
被害者の遺族が受け取る生命保険金は、払込をした保険料の対価として、生命保険契約に基づき、被保険者の死亡という事実(原因が交通事故に限らない)に基づいて支払われるものです。それで、損益相殺として控除されません。
香典・見舞金
加害者が支払ったものであっても、香典や見舞金は、社会通念上の金額の範囲内であれば、被害者側の被害感情を軽減するための社会儀礼上の支払と考えられ、損益相殺として控除しないとされるのが一般的です。
労災保険上の特別支給金
労災保険の特別支給金等は、保険給付のような災害補償の目的ではなく、労働者福祉事業の一環として行われるものであることから、損益相殺として損害額から控除しないとするのが一般的です。
労災保険と損益相殺との関係
法律上の原則
通勤中に交通事故に遭ったようなケースでは、労災保険を使うこともできます。この場合、労災保険金を受け取ると損益相殺がされるでしょうか。
原則として損益相殺がされることになります。つまり、交通事故を理由に受け取った労災保険金については、原則として当該受領額が、交通事故の損害賠償額から差引かれることになります。
すなわち、交通事故では、本来は加害者が被害者に、被害者が受けた損害を賠償することが筋です。それで通勤中の交通事故等を理由に国が被害者に労災保険金を支払った場合、その支払は、国が、加害者に代わって被害者に支払いをしたということになります。
そのため、国は、支払った労災保険金の金額の範囲で、元来は被害者が加害者に対して有していた支払請求権を代位取得し、被害者は、国から支払を受けた労災保険金額の限度で、支払請求権を失うとされているのです。
損益相殺の対象とならない場合
しかし、労災保険金のすべてが損益相殺の対象となるわけではありません。例えば、労災保険には年金のように継続的な給付を内容とするものもあります。
しかし、損益相殺の対象となるのは、労災保険から現実に支給された額と、現実には支給されていないものの支給が確定した額だけであり、将来支払われる予定の未払い部分までが損益相殺されることはないというのが裁判例の考え方です。
また、労災保険の中で、休業特別支給金や傷害特別支給金といった、代位規定が法令上定められていない特別支給金についても損益相殺の対象とならないというのが裁判例の判断です。