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請求減額の要素(2)~好意同乗減額 

 
 このページでは、請求が減額される可能性のある要素のひとつである「好意同乗減額」について解説します。

好意同乗・好意同乗減額とは

 「好意同乗」とは、同乗する人が、運転者の親族や友人であるといった理由で、無償で車に乗せてもらうことをいいます。これを「無償同乗」ともいいます。

 好意同乗をしている際に運転者が単独の事故を起こし、これにより好意同乗者が怪我を負うなどの損害を受ける場合がありますが、そのようなときに好意同乗者としては、運転者を加害者として損害賠償の請求を行うことになります。その際に好意(無償)で同乗していたことを理由に損害賠償の減額が考慮されることがあり、それを「好意(無償)同乗減額」といいます。実務上、保険会社は、好意同乗者に20パーセント前後の過失があると主張することが多く見受けられます。

 しかし結論からいうと、保険会社の主張は正当ではない場合が多いといえます。弊所のご相談者の中でも、「友人や親族の車にただ乗っていただけで、自分には何の落ち度も見いだされないのに、なぜ20パーセントもの過失があるとされるのか?」と疑問に思う方が多いのも事実であり、その疑問はもっともであると思います。

好意同乗減額が主張される理由

 保険会社がこのように好意同乗減額を主張してくるのには理由がありますが、それは、古い裁判例において、好意同乗減額が多く認められていたことが挙げられます。

 昭和40年代や50年代にそうした判決がいくつも出されましたが、その中では減額の理由として、好意同乗者にも倫理的素因があるとか、信義則に照らし全額の請求は許されないといった説明がなされていました。要するに、「好意同乗者として無償で乗せてもらっていたにもかかわらず、いざ事故に遭ったときに、その損害の全額を加害者(運転者)に請求するのは信義則上許されない、それは公平に反する。」というわけです。

 例えば、東京地裁昭和44年9月17日判決では、被害者の女性は、夜間の長距離ドライブを行う車両に自ら進んで同乗したことに危険の素因があり、無償で乗せてもらっていたのだから倫理的な素因もあるとして、30パーセントの減額がなされました。また、東京高裁昭和52年7月4日判決では、被害者は、通勤の際に偶然通りかかった同僚の車に拾ってもらい、無償で乗せてもらっていたところ事故に遭ってしまったケースで、信義則の観念を適用して、好意同乗者の損害賠償額を50パーセント減額しています。

 それで、保険会社が好意同乗減額を主張してくる場合は、だいたいこうした古い判例を引き合いに出してくることが多いと考えられます。

最近の判例の動向

 しかし、最近の判例実務では、同乗していて事故に遭ってしまった好意同乗者については、単に好意同乗者であるという理由だけでは減額は行われなくなりました。「なぜ同乗していただけなのに、自分に過失があるの?」という被害者の心情を裁判所が汲むようになり、被害者の公平な救済が行われるようになったと評価できます。

 ただし、好意同乗減額が一切行われなくなったというわけではありません。平成に入ってからの多くの判例は好意同乗者について、好意同乗の事実だけで損害賠償額を減額することはしないものの、好意同乗者が事故発生の危険が増大するような状況を現出させたり、あるいは事故発生の危険が極めて高いような客観的事情が存在することを知りながらあえて同乗したなど、好意同乗者に事故の発生につき非難すべき事情がある場合に限って、減額を認めるようになっています。

 例えば、若者だけの仲間による深夜ドライブにおいて定員超過で乗車し、運転者が終始1人で運転し疲労していたため事故が発生したケース、運転者が酩酊していることや無免許運転であることを承知していたケース、同乗者が自らいわゆる箱乗りを行い、事故の際の被害を増大させたケースなどに減額が認められています。これらはいずれも同乗者にも事故の発生や被害の拡大に責任があるとして、減額を認めています。

好意同乗減額に関する交渉の留意点

 上述したとおり、裁判実務は、好意同乗自体を理由としては減額せず、好意同乗者にも責められるべき点がある場合に限って減額を行っています。

 しかし問題は、交渉実務において保険会社が、好意同乗者には何ら非難される要素がないケースでも減額を主張しているという点です。

 そのような場合、被害者としては、保険会社から裁判例を見せられ、「裁判所がこのように判断しています。」と言われれば「そういうものなのか。」と感じて示談してしまうことも多いでしょうし、仮に保険会社の主張に不服であっても、これに効果的に反論し、法的な交渉を行うことは通常は難しいと思われます。保険会社からそのような主張がなされた場合にはそれを鵜呑みにせず、弁護士に相談されることをお勧めします。

 さらに、ご自分で「自分にもちょっと責められる点がある。好意同乗減額がされても仕方がないのかもしれない。」と感じられる場合でも、簡単にあきらめず弁護士に相談されることがよいのではないかと思います。多数の裁判例を見てみますと、例えば運転者が飲酒していることを承知して同乗していたケースや、運転者が免許停止処分中であることを承知で同乗したようなケースであっても、事故発生にいたる経緯やそれに対する好意同乗者の関与の程度の個別具体的な判断によって、減額が認められなかったものがたくさんあるからです。

ご注意事項

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