治療に関する留意点
このページでは、交通事故発生から解決までの流れのうち、治療に当たっての留意点について、ポイントを絞って解説します。
交通事故治療の開始・終了についての留意点
早期に治療を受ける
事故によって救急車で搬送された場合は別としても、怪我が大きくなさそうだ、痛みも大きくないという理由で、事故当日や、その直後何日か病院に行かない方もおられますが、お勧めできません。
事故による身体への衝撃は意外と大きく、数日後に痛みが出ることもしばしばですので、事故の当日(深夜等なら翌日)、医療機関を受診することをお勧めします。
きちんと通院をする
また、事故後も、完治まで・症状固定までは病院に行ききちんと通院治療を受けることが重要となります。休業して通院せず家で休んでいただけという場合、休業補償を渋る保険会社は少なくありません。また、今後の慰謝料金額に関しても、通院の回数等は大きな影響力があります。
さらに、自己判断で途中で通院を中断し、その後やはり辛くなったため通院を再開したと考える場合でも、保険会社が治療の支払を渋ることもありますし、最終的な示談や裁判の段階で、再開後の治療費について事故との因果関係が疑問視されることもあります。そしてそのことが、慰謝料の金額や後遺障害の判断にも影響することがあります。
そして何よりも、ご自分の今後の身体を考えると、きちんと通院すべきということになります。
転院の可否・留意点
通院中の整形外科の医師が親身になってくれないとか、十分な治療をしてくれないように思えるなどの理由で、転院することを考えることがあるかもしれません。転院はできるでしょうか。
この点、原則的には可能です。それは、どの医療機関で治療を受けるかは、被害者(患者)自身が自由に決められるからです。しかし、転院先の医療機関の治療方法が通常の治療と異なる特殊な治療を行っている等の場合等、保険会社が転院後の治療について事故との因果関係を争ってくることがあります。
それで、転院する場合、保険会社に、転院が必要な理由を説明し、了承を得ることが重要といえます。これに対し保険会社が転院を認めなかった場合、転院を断念するか、転院をした上で自分の健康保険を使うなどして治療を続けるかを選択することになります。
もちろん、保険会社が転院を認めなかったからといって、転院後の治療の費用が、示談の際に常に賠償の対象とならないわけではありません。むしろ、転院と治療継続の必要性を主張立証し、保険会社と交渉して認めてもらえるケースは少なくありません。
もっとも、当初の医療機関の医師の診断では明らかになっていなかった病名が、転院後の検査や医師の所見で明らかになったという場合、保険会社が事故との因果関係を争ってくることは珍しくありません。それで、初期の段階できちんとした検査や診療を受けることはやはり重要であるとはいえます。
治療費支払の諸問題
治療費の負担者・保険会社による直接払
交通事故の治療のために入通院する場合、治療費は誰が負担し、誰が支払うことになるでしょうか。
この点、実務上の取り扱いとして、加害者側の保険会社が直接治療費を支払い、医療機関も保険会社に直接請求するケースが珍しくありません。それで、医療機関に、「交通事故に遭って治療を受ける」ことを説明し、治療費は加害者の保険会社への直接請求するよう、相談してみるとよいでしょう。
他方、医療機関が上のような保険会社への直接請求の義務があるわけではありません。また、保険会社側が、治療内容や時期から、当該治療と事故との因果関係に疑問を持っている場合や、被害者側の過失の程度が大きいという場合、保険会社が治療費の直接払いに応ないケースもあります。
この点、保険会社が治療費を直接払する法的義務はありませんので、上のような場合、被害者が一旦は自分で支払うしかありません。この場合には、負担を少しでも軽減するために健康保険を使うようにし、かつ、将来きちんと請求できるよう、治療費の領収書は保存しておく必要があります。
なお、治療費のうち賠償の対象となるものとならないものについては、「交通事故損害賠償の解説~治療関係費の解説」ページをご覧ください。
人身傷害特約による治療費の補償
また、加害者側の保険会社が治療費を支払ってくれないというケースで、被害者が加入している任意保険の中で、人身傷害補償保険が付いているケースがあります。
この場合、その人身傷害特約を使って治療費が支払われます。それで、加害者側の任意保険会社だけでなく、自身で契約している任意保険の契約内容をチェックしてみると有益となる場合があります。
治療費支払の打切を告げられた場合
まだ治療が継続しているにもかかわらず、保険会社が治療費の打ち切りを通告してくることがあります。特に、頚椎捻挫(いわゆるむち打ち症)といったケースでは、一定期間治療をしたという理由でそのような通告をしてくるケースが見られます。
しかし、治療継続の要否は、医師による医学的判断であって、保険会社が判断できるものではありません。この場合、医師に相談の上、保険会社に治療の必要性を説明して、治療費の支払いを継続するよう交渉します。
それでも保険会社が治療費の支払継続に同意しない場合もあり、一方的に治療費の支払を打ち切ることがあります。この場合は、医学的に治療継続が必要であれば治療を終了させるのは望ましくありません。それで、健康保険を利用する等によって治療を継続することが望ましいと考えられます。ただし、その時点で治療継続の必要性を明記した診断書を得ておくことは有益でしょう。
その場合、後の示談交渉において、負担した治療費を精算するよう交渉することになります(ただし、必ず精算されるとは限りません。)。
交通事故の治療と健康保険の利用の可否
交通事故の治療で健康保険を使おうとしたところ、医療機関から、交通事故の場合は健康保険は使えないと言われた、と相談を受けるケースがあります。健康保険は本当に使えないのでしょうか。
結論からいえば使えないことはありません。「第三者行為による傷病届」という書類を健康保険協会や健康保険組合に提出すれば、健康保険の使用は可能です。
なお、この「第三者行為による傷病届」とは、当該治療が第三者の加害行為であることを知らせることで、健康保険が、後日加害者側へ求償することができるようにしておく目的があります。
交通事故の治療と労災保険の利用の可否
前記のほか、勤務中や通勤中に交通事故に遭った場合、労災保険(公務員の場合公務災害保険)を申請して、労災保険から治療費を支払ってもらうこともできます。
それで、通勤中の交通事故などで、保険会社が治療費の直接払を拒んだり、過失相殺が大きいことが想定される場合、労災保険を使える場合には、大きな選択肢となります。
さらに、労災保険を申請することで、加害者側からの賠償金に加え、一定の補償を受けられるケースがありますから、この点からも労災保険を申請するメリットがあります。
医療機関以外における治療の留意点
整骨院・鍼灸院等
交通事故の治療のために、整骨院や鍼灸院に通うことを希望する被害者の方は少なくありません。
整骨院や鍼灸院であっても、これらの費用について治療費として賠償の対象となったり、保険会社が直接払の対象と扱ってもらえることは少なくありません。しかし、以下の点に留意する必要があります。
● 医療機関への通院も継続する
頻度は医師と相談して決める必要がありますが、整骨院や鍼灸院しか通わないのではなく、一定の頻度、医療機関への通院も継続することが無難です。
● 医師の承諾を得ておく
整骨院や鍼灸院に通うことについて、医師の指示があるのが最善ですが、そうではなくても、医師の承諾を得ておくことは重要です。
● 保険会社の同意を得ておく
整骨院や鍼灸院に通うことについて、事前に保険会社に説明し、同意を得ておくことも大切です。
温泉治療
温泉療法を利用したいとお考えの方もおられるでしょう。ただし、温泉治療について保険会社が直接払の扱いをするケースは稀ではないかと思われます。
また、温泉治療が後日賠償の対象となる可能性は低いという点を理解の上、利用する必要があると思われます。ただし、温泉治療が医師の指示に従って実施するというケースであって、かつ、医療機関の付属診療所やそれに準ずるような施設で治療を受けるような場合には、賠償の対象となる余地があります。
症状固定について
症状固定とは何か
交通事故の治療を続けていくと、ある時点で「症状固定」ということが話題に出ることが少なくありません。この「症状固定」とは何でしょうか。
症状固定とは、ある程度の期間治療を行ったものの、不幸にしてこれ以上治療しても良くならず、症状が残った状態(後遺障害)をいいます。
症状固定の判断は、基本的には医師が行います。そして、症状固定後、交通事故の治療をしてきた医師に「後遺障害診断書」を書いてもらいます。
症状固定前後での取扱の違い
「症状固定」後は、保険会社は治療費の支払を終了しますし、症状固定後の治療費は、賠償の対象ともならないのが原則です。また、休業損害の請求もできなくなります。治療を続ける限り、無期限に治療費と休業損害を請求できるわけではありませんので、この点注意が必要です。
そして、症状固定後は、医師が書いた「後遺障害診断書」等の資料に基づき後遺障害の等級の認定の手続を経て、損害の計算をし、示談交渉に入ることとなります。 後遺障害等級認定手続については、こちらをご覧ください。
後遺障害診断書取得の際の注意点
症状固定の時点で医師に書いていただく「後遺障害診断書」は、その後に行われる、後遺障害等級認定の際の判断を大きく左右する、最も重要な資料の一つとなります。
そして実際、この「後遺障害診断書」に、本来は存在した症状や所見が記載されなかったため、適正な後遺障害等級認定が受けられず、他の資料でも覆せなかったというケースが存在します。この点、(症状によって見込まれる)後遺障害の等級に応じ、必要十分な内容の後遺障害診断書を書いてもらうことが重要となります。
もちろん、だからといって患者の立場で医師に、後遺障害診断書の内容について指図することは難しいですし、医師の心証を害することにもなりかねません。この点については実はノウハウがありますので、こうしたノウハウを持つ弁護士に一度相談してみることは有益でしょう。