2011-11-15 オークション出品カタログと著作権
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 事案の概要
H21.11.26 東京地裁判決
美術オークション会社であるA社が、オークションに出品する美術品の画像を、カタログ等に掲載しました。これに対し、その美術品の作家が、著作権の侵害を理由に提訴したのが今回の事案です。
争点は多数ありますが、ここでは、「展示に伴う複製(著作権法47条)として適法か」という論点に絞ります。
ここでA社は、カタログとパンフレットは、オークション等で著作物(美術品)を展示するに当たって観覧者にその著作物を紹介するために作成されたものであって著作権法47条の「小冊子」に該当するので、これに美術品の画像を掲載したことは適法な行為であると主張しました。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のように判断しました。
● 著作権法47条の「小冊子」は「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものであるとされていることからすれば、観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布するものは、「小冊子」に当たらない。
● A社のカタログは、このカタログが綴じ込まれたフリーペーパーは、6万部が発行され、美術館、画廊、コンサートホール、劇場等の場所に備え置かれ無料で配布されていたものであり、その綴じ込みカタログは、オークションに参加し美術品を観覧する者であるか否かにかかわらず、自由に受け取ることができた。
● それで、A社のカタログは、著作権法47条の「小冊子」に当たるものとはいえない。
3 解説
(1)美術品の著作物の展示と小冊子への複製
美術作品などにおいては、販売・転売されることによって著作権者と所有者が異なることはよくあることです。そして著作権者ではない所有者にも、その美術作品(原作品)を公に展示する権利があります(著作権法45条1項)。
しかし、美術作品の所有者は、このような展示する権利はありますが、美術作品を複製することはできません。しかしそれを徹底すると、美術作品を紹介する図録、解説するパンフレットなども作れないこととなり、大変不便です。
それで、著作権法47条は、美術の著作物等を「公に展示する者は、観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」と定めました。
したがって、ここでいう「小冊子」とは、この展覧会などの観覧者に美術作品の解説または紹介を目的とするものに限られます。それで、それ自体が実質的にみて観賞用と評価されるような豪華本や画集はこの「小冊子」には含まれないことになります。
また、今回の事例のA社が作成・頒布したカタログは、観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布するものであったため、現行法のもとでは、ここでいう「小冊子」には当たらないと判断されました。
(2)オークションにおける複製画像の取扱いと著作権法改正
ただし、近年の社会状況の変化とともに、著作権法47条だけでは不都合な事態が生じるようになりました。
最近では、インターネットオークションなど対面で行われない取引が広く普及しています。その際、取引される美術作品について、所有者が商品紹介用の画像をネット上に掲載することは、著作権法47条の「小冊子」には入りません。そして、他にこれを根拠づける規定もないため、美術作品の著作権を侵害する可能性があると指摘されていました。しかしこの行為を違法とすることは、明らかに現在の取引の実情に合っていません。
そのため、平成21年6月19日の著作権法改正により新たな47条の2が挿入されました。ここでは、美術品の所有者らがこの美術品を譲渡する際に、その譲渡の申し出を行う目的のために、作品の複製・ネットワーク掲載等ができるようになりました。
ただし、複製され掲載された作品がそれ自体鑑賞の目的になってしまうと著作権者の権利を害します。それで、例えば、美術作品をデジタル画像にしてインターネットに掲載する場合は、サイズが32400ピクセル以下(複製防止措置がなされていれば9万ピクセル以下)とされています(著作権法施行令7条の2、著作権法施行規則4条の2)。つまりいわゆるサムネイルといわれる程度の大きさというわけです。
(3)時代の変化と法改正
多くの法律は時代の変化にあわせて改正がなされてきました。しかし多くの場合、時代の変化が先行し、しばらく時間が経過した後に法改正がなされ、立法的な解決がなされるということが見られます。著作権法は特に多くの改正がされてきた法律ですし、昨年6月に成立した資金決済法もそういえるでしょう。
それで、問題はこの立法的な解決がなされるまでの「グレー」な期間、どのように対応するかについては、頭の痛い問題ではないかと思います。コンプライアンスを重視する必要もあり、他方で正式な法改正まで待っていては事業機会を逸することになりかねない、その間をどのように両立させていくか、という問題です。
このような場合には、他の場合よりもさらに、事前のリサーチによるリスクの把握とできる限りのリスク回避が必要になってきます。少なくとも、現行法とその現行の解釈に抵触する行為が含まれないようなスキームを作ること、仮にリスクがあるとして、刑事責任まで及ぶ可能性か、行政上の処分がありえるか、せいぜい民事上の損害賠償責任にとどまるのか、負わなければならない損害賠償等の民事責任の程度はどうか、そのリスクが公になったときのレピュテーションの毀損によるダメージの程度、株主からの責任追及の可能性等々が考えるべき要素となると思われます。
これらの要素の検討においては、単なる法律の条文の解釈だけでなく、判例や学説も踏まえた解釈の限界点のようなところを見ていく必要も生じますし、一見関係ないと思って見過ごしている法律が実は関係するなど、広くかつ専門的見地から検討する必要がある場合も多いかと思います。
したがって、これらの問題については、担当者が独自に調査・検討することはもちろん必要ですが、弁護士等の法律の専門家への相談・場合によっては意見書等の書面の取得を検討することは、有益又は必要でしょう。
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