2011-09-06 メルマガタイトル・リンクと商標の使用
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 メルマガタイトル・リンクと商標の使用
知財高裁平成22年4月14日判決
食品メーカーであるH社は、「CLUBHOUSE/クラブハウス」という商標の商標権者でした。当該商標の指定商品は「加工食料品」等でした。
この商標に対し、特許庁が不使用取消審判において取消を認める審決をしたため、H社が、その取消しを求めました。
問題となったH社による使用態様は、H社が、メールマガジンと読者限定ウェブサイトに「クラブハウス」という標章を表示するもので、これらメールマガジン・当該限定サイトに貼られた多数のリンクによって、直接、加工食料品等H社の商品を詳しく紹介するH社のウェブサイトの商品カタログ等のページが閲覧でき、そのページで、商品写真や説明を閲覧することができる仕組みになっていました。
2 裁判所の判断
知財高裁は、H社の請求を認め、審決を取り消しました。
- 商標の使用があるとするためには、当該商標が、必ずしも指定商品に付されて使用されていることは必要ではないが、その商品との具体的関係において使用されていなければならない。
- 「クラブハウス」の標章が付されたメールマガジン及び当該限定サイトが、H社の商品を宣伝する目的で配信され、多数のリンクにより、直接加工食料品等のH社の商品を詳しく紹介するH社のウェブサイトの商品カタログ等のページにおいて商品写真や説明を閲覧することができる仕組みになっていることに照らすと、メールマガジン及び当該限定サイトは、H社商品に関する広告又は原告商品を内容とする情報ということができ、そこに表示された『クラブハウス』標章は、H社の加工食料品との具体的関係において使用されているものということができる。
- したがって、『クラブハウス』標章は、加工食料品を中心とするH社商品に関する広告又は原告商品を内容とする情報に付されているものということができる。
3 解説
(1) 商標の使用の意味
商標権者は、商標権を維持するためには、当該商標を使用している必要があります。そうでないと、他者から不使用取消審判を起こされ、取り消されてしまうおそれがあります。
そして、裁判例で争われてきた多くの事案で、ある具体的使用方法がその商標の「使用」といえるのかが問題となってきました。
この点、商標の使用があると判断されるためには、当該商標は、必ずしも指定商品に付されて使用されていることまでは必要ありません。しかし、その商品との「具体的関係において」使用されていなければならないとされています(最二小判昭43.2.9民集22巻2号159頁)。
(2) メルマガなどからのリンクと商標の使用
本件では、判決のとおり、メルマガのタイトルなどに使用された「クラブハウス」という標章について、そのメルマガなどからの多数のリンクを通じて閲覧できるウェブサイトにH社の加工食品の紹介・宣伝があり、そのため、「クラブハウス」という標章が、そのウェブサイト上の商品との「具体的関係において」使用されている、すなわち、指定商品である加工食品等に使用されていると判断されたものでした。
この点に関連して、裁判所は、判決理由の中で、「商標法2条3項1号所定の使用とは異なり、同項8号所定の使用(*)においては、、指定商品に直接商標が付されていることは必要ではないところ、リンクを通じて原告のウェブページの商品カタログに飛び、加工食料品たる原告商品の広告を閲覧できること、そして、そのような広告はインターネットを利用した広告として一般的な形態の一つであると解されること」からすると、H社のメールマガジン等の表示が、H社商品に関する広告に当たらないということはできない、と述べました。
この点の裁判所の判断については、インターネットという、広告宣伝の変化の実態に即したものであるという評価が多いように思われます。
(*)商標法2条3項8号で、商標の使用の一態様として「商品に関する広告に標章を付して頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」と規定されているものですものです。
(3)商標の維持の観点から
もっとも、本件は、いったん特許庁で不使用取消審判がなされたとおり、商標が指定商品に使用されたことが明明白白であったとまではいえないように思われます。
それで、ある商標を維持するための方策として、本件判決を根拠に、ある商標をメールマガジンのタイトルに使用し、そのリンク先にその指定商品の宣伝を置く、という方法だけを取れば大丈夫、といった見方はあまりお勧めはしにくいところです。
本件でも、結果として不使用取消は免れましたが、不使用取消審判や審決取消訴訟への対応について結果的に多くのコストをかけているという点を見ても企業経営上はプラスとはいえなかったのではないかと思われます。
少なくとも、現実の宣伝広告の運用においては、インターネット上で商標を使用するのであれば、当該指定商品の宣伝の同一ページに当該商標を表示するといった方法など、商標法2条3項8号により直接に即し、争いに巻き込まれる余地を少なくすることがより好ましいのではないかと考えられます。
(4)メルマガタイトルの選択と他社商標との関係
他方、本件の判決は、他社商標の侵害について考慮する場合に、ひとつの考慮しなければならない要素を増やすものといえるかもしれません。
例えば、「X」というタイトルで発行する自社のメールマガジンなどで、自社の商品宣伝(例えば文房具とか)のサイトにリンクするといったケースがあるとします。
他方、たまたま、他社が、「X」というメルマガタイトルと同じ(または類似の)標章について、文房具を指定商品とする商標を持っていた場合、自社が選んだメルマガタイトルが、実はその他社の商標権を侵害している、といった事態も起きないではありません。
したがって、自社メルマガを発行する場合、そのタイトルの使用が、商標の使用として判断される余地がないか、また、他社の商標に抵触していないか、そういったことに注意を払うことも考慮に入れるべきではないかと思われます。そして、タイトルの使用が「商標の使用」といえるか判断が難しい場合、商標の専門家の意見を聞くなどの事前策はマイナスにはならないでしょう。
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