2011-07-11 病院経営管理に関する書籍と職務著作
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 病院経営管理に関する書籍と職務著作
東京地裁平成22年9月30日判決
医療・福祉経営コンサル会社X社に就職し、取締役になったY氏が、出版社から病院の経営管理に関する書籍の執筆の依頼を受けました。
Y氏は、部下である従業員らと分担して執筆を担当しました。Y氏がX社を退職後、当該書籍Aが出版されました。
これに対し、X社が、書籍AがX社の職務上作成されたものであるとして、また、従業員らが執筆した部分の著作物の著作権がX社に帰属するとして、Y氏に対し、書籍Aの出版、販売及び頒布の差止めと廃棄、損害賠償を求めました。
2 裁判所の判断
裁判所は以下のように判断し、X社の請求を認めませんでした。
- 書籍Aの執筆は、Y氏個人に対して依頼されたものであり、各執筆担当従業員がY氏からの個人的な依頼に基づき執筆を行ったものであると認定し、書籍Aの執筆過程で作成された著作物は、X社の発意に基づき職務上作成されたものであるということはできない。
- したがって、書籍Aに含まれる著作物はX社の職務著作とはいえず、X社に著作権は帰属しない。
3 解説
(1)職務著作とは
通常、ある著作物の著作者になるのは、その著作物について現実に創作活動を行った個人です。
しかし、会社(法人)等の職員がその職務上著作物を創作する場合があります(例:会社の従業員が製品マニュアルを作成する。新聞記者が新聞記事を執筆するなど)。このような場合に、会社にその著作権が帰属させないと不都合なことが多くなります。
そこで、著作権法は、一定の要件を全て満たす場合、会社などの法人が著作者になる旨を定めています(著作権法15条)。
(2)職務著作の要件
著作権法が定める一定の要件は以下のものです。
- その著作物が、当該法人や雇用者の発意に基づくものであること
- 法人等の業務に従事する者が、職務上創作したこと
- 公表するときには、法人等の名義で公表されること
- 契約や就業規則に別段の定め(例えば従業員を著作者とする定め等)がないこと
以上のとおり、職務著作が認められる要件は少なくありませんので、自社で何かの著作物を作成する場合、上記要件を意識した運用が必要となってきます。
例えば、前記のうち、2番目の要件についていえば、使用者と作成者とのあいだに雇用関係があること、または、実質的にみて、法人等の内部において従業者として従事していると認められる場合があることをいいます。それで、雇用関係のない外部の者が請負契約により著作物を作成した場合には、職務著作は適用されません。したがって、請負契約等で第三者に著作物の作成を依頼する場合、契約書に著作権の移転を明示する必要があるわけです。
なお、職務著作の要件に関する個々の論点は、今後都度取り上げていきたいと思います。
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