2011-05-31 「こくうま」商標と記述的商標
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
今回のトピック:「こくうま」商標と記述的商標
H21.07.21 知財高裁判決
平成19年1月26日、A社は、指定商品を「キムチ」とする「こくうま」という商標の登録を受けました。
これに対し、「こく旨」と表記してキムチを販売してきたB社は、上記商標は「その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(商標法3条1項3号)であるとして、特許庁に対して、無効審判の請求をしました。
平成20年12月19日、特許庁は、B社の無効審判の請求を認めない審決をしたため、B社がこの審決の取消を求め、知財高裁に提訴しました。
判決の概要
結論
請求棄却(審決維持)
理由
知財高裁は、以下のように判断しました。
● 「こくうま」の語が国語辞典に掲載されていたことを認めるに足りる証拠がなく、「こくうま」の語は、日本語として一般的に用いられているとまでいうことはできない。
● 食品の品質等を暗示ないし間接的に表示するものとはいえても、直接的に表示したものとまでいうことはできず、平仮名の「こくうま」の表記がキムチに使用されている例がA社の商品以外は認められないことなどから、「こくうま」の商標を「キムチ」に用いた場合、需要者が、「こくがあってうまい」というキムチの品質それ自体を表示するものと認識されるとまでいうことはできない。
● 当該商標が、「その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(商標法3条1項3号)に当たるとは認められない。
解説
記述的商標とは
商標法は、一定の場合に商標の登録ができない事由(不登録事由)を定めており、その中の一つが、この裁判で問題となった、その商品の品質などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)です。
正確には、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」が登録できません。
このような商標を「記述的商標」といいます。さらに例を挙げれば、アサヒビールの「本生」についても、知財高裁平成19年3月28日判決は、「本願商標は、これを本願指定商品中『熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒』に使用しても、これに接する需要者をして、単に商品の品質を表示したものと認識させるにすぎず、商標法3条1項3号に該当する」と判断しました。
しかし、具体的な事例において、記述的商標と判断されるものとそうでないものの区別は難しい場合があります。
前記「こくうま」の事例では、A社は、平成17年6月21日に「食用油脂、乳製品、卵、冷凍野菜、肉製品、加工水産物、加工野菜及び加工果実、豆乳、カレー・シチュー又はスープのもと、お茶漬けのり、ふりかけ、なめ物」等を指定商品として「こくうま」の商標登録出願をしました。しかし、特許庁から「本件商標を指定商品に使用しても、該商品が美味であることを理解させるにとどまるから、商標法3条1項3号に該当する」旨の拒絶理由通知を受けたため、指定商品を「キムチ」のみとする補正を行って、本件商標登録をしたという経緯がありました。
つまり、「こくうま」の商標については、「食用油脂、乳製品、卵、冷凍野菜、肉製品、加工水産物、加工野菜及び加工果実、豆乳、カレー・シチュー又はスープのもと、お茶漬けのり、ふりかけ、なめ物」などに使う場合には、記述的商標となりますが、「キムチ」に使う場合には、記述的商標とはならなかった訳です。
商品名選定の際の注意点
商品名の選定の際には、以上のような商標法の考え方を踏まえて検討する必要があります。
多くの場合、その商品の特徴・種類・内容を示す商標が好まれて使用されています。このネーミングは、消費者に商品・サービスの特徴を比較的短期間に記憶してもらえる効果が期待できます。それで、今まで世の中になかった画期的な技術又は機能を採用した商品である場合、同様の商品がなかったという商品の場合、商標が短期間使用される予定のものである場合には、効果的でしょう。
ただし、上で述べたとおり、商品の性質・特徴・用途を直接示す言葉は、「記述的商標」として、登録を受けることができません。それで、ネーミングでその商品の特徴・種類・内容をうまく暗示しつつ、記述的商標と判断されることを避けるためにはそれなりの考慮が必要であり、このバランスについて判断が難しい場合があります。
この点については、ネーミングの候補選定の段階で、弁理士・商標法を扱う弁護士に、過去の判例・審決例等からの検討をしてもらい、そのネーミングについて商標登録を受けられる可能性を踏まえた上で商品名の選定を行うことは重要といえるでしょう。
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