2011-01-21 契約上の競業禁止義務と契約終了後の効力
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
事案の概要
東京地方裁判所平成19年12月26日判決
これは,前回のトピックと同じ判決を取り上げたものです。
生ゴミ処理機を製造,販売するX社が,同様に生ゴミ処理機を 製造,販売するYに対し訴訟を起こしました。本号と関係のある事実関係を少し取り上げると,事案は以下のとおりです。
Y社は,平成5年8月ころから,生ゴミ処理機等製造,販売し ていました。そして平成9年2月,Y社とX社の代表者Z氏は, 代理店契約を結び,X社の代表者Z氏はY社製品の販売代理店 となりました。
そして,Z氏は,Y社に対し,以下の内容を含む誓約書を提出 していました。
「弊社は,貴社製品の生ゴミ消滅装置『A』の販売又は 様々な技術資料/見学などの提供を受けてからも決して同じよ うな製品を製造したり/他者にさせたりする事なく,あくまでも代理販売又は貴社に損害を与えるような行為は一切致しません。」
その後,この代理店契約は平成14年4月ころ終了し,X社は, 独自の生ゴミ処理機の開発を行なって独自製品の販売を開始し ました。これに対し,Y社は,X社は代理店契約終了後も,前 記誓約書に書かれた競合製品製造禁止の義務を負うから,X社 の製品の製造販売は前記誓約書の内容に反すると主張しました。
判決の概要
裁判所は,上記誓約書に含まれる競業禁止の効力を認めた上で, 以下のように判断しました。
「しかしながら,本件誓約書上の上記義務は,本件代理店契約 が終了した後も継続するとは解されず,同契約終了後は,本件 誓約書による合意も終了し,上記義務は効力を失うと解するの が相当である。
すなわち,このような不作為義務を代理店に負わせることは, 代理店契約の当事者間では,有効であると解されるものの,代 理店契約を締結している代理店が,競合する商品によって利益 を得ることを制限し,それにより契約の他方当事者である本人 の利益を確保する意味を有するものであり,また,代理店とな る者による競業を禁止し,職業選択を制限するものであるから, その効力は,代理店契約終了後も存続することが明確に示され ていない以上,同契約終了後は認められないというべきである。
そして,本件誓約書の文面では,上記義務が,契約終了後も存 続することは明記されていない上,上記義務が契約終了後も存 続する旨の合意やそれをうかがわせる事情も認められないから, 原告は,本件代理店契約の終了後,本件誓約書上の義務を負わ ないと解される。」
以上の判断から,X社の生ゴミ処理機の製造販売には契約違反 の事実はないとしました。
解説
代理店契約その他の契約において,製造元等が代理店に対し, 競合製品を製造・販売しない義務を課すことはよくあることで す。
この義務自体は,特に独占的代理店の場合には,契約の目的を 達成する上で必要かつ重要ですが,この義務だけを取り出せば, 本質的に製造元等の利益のために代理店の利益を制限する条項 である以上,その効力は,契約条項に記載されている以上に広 く解されることはなく,むしろ場合によって狭く解される可能 性があります。
例えば,この判決が示したように,契約終了後の競業の禁止義 務も,契約条項に定めれば効力が認めらる場合がありますが, 契約条項に定められていない場合には認められないのは当然で しょう。
また,契約終了後の競業の禁止について,例えば永久かつ全世 界という範囲を明示した場合に,これが有効かというと極めて 疑問であり,結局この条項自体が無効になるリスクがあります。 この場合,製造元等でも,競業の禁止の目的から合理的な範囲 (年数の制限,地域の制限)にとどめるほうが結果的には自社 の利益を守るものとなります。
公正取引委員会も,「供給業者が契約終了後において総代理店 の競争品の取扱いを制限することは,総代理店の事業活動を拘 束して,市場への参入を妨げることとなるものであり,原則と して独占禁止法上問題となる。ただし,秘密情報(販売ノウハ ウを含む。)の流用防止その他正当な理由があり,かつ,それ に必要な範囲内で制限するものである場合には,原則として独 占禁止法上問題とはならない。」という立場を取っています (流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針 / 第3部 総 代理店に関する独占禁止法上の指針)。
何が合理的かの範囲は非常に難しい問題であり,過去の判例や 民商法,独禁法に照らした検討のためには事前の弁護士への相 談は重要でしょう。
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