2009-11-26 民事訴訟による個人情報開示請求
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
事案の概要
東京地方裁判所平成19年6月27日判決
事案は次のとおりです。眼科の患者2名が、その眼科を設置する医療法人に、自己の診療記録の開示を求めました。これに対し、医療法人が開示に応じず、かつ、開示の有無についての回答もしませんでした。
そのため、その患者2名は、東京地裁に訴訟を起こし、この医療法人に対し、カルテの開示を求めました(他に慰謝料各自10万円の支払いを求めましたがこの点は省略します)。
判決の概要
【結論】
民事訴訟によるカルテの開示請求権 → 否定
【理由】
主な理由は次のとおりです。
法25条1項が本人に保有個人データの開示請求権を付与した規定であると解することは困難である。
個人情報保護法は、「25条1項による開示の求め等に関する苦情の処理については、個人情報取扱事業者、業界団体による自主的な紛争解決を期待しており、そのために、本人が裁判外の各種の方法によって苦情の解決を求められる仕組みを設けるとともに、そのような自主的解決が期待できない場合の主務大臣による関与の仕組みを設けているものといえる。」
「このような法の規定にかんがみると、法は、個人情報取扱事業者が法25条等の規定に違反した場合には、当該個人情報取扱事業者や認定個人情報保護団体による自主的解決及び主務大臣による行政上の監督によって、個人の権利利益を保護することとしているものと解される。」
「法25条1項は、その標題が「開示」とされ、個人情報の開示を専ら個人情報取扱事業者の義務として規定し、本人が開示請求権を有することを規定していないことからすると、同項は、文言上も、行政機関(主務大臣)に対する義務として個人情報取扱事業者の開示義務を規定しているものであって、本人が開示請求権を有する旨を規定しているものではないと解される。」
そして、裁判所は、法に定めた紛争解決手段が定められているにもかかわらず、個人が直接裁判所に開示を請求できると解すると、法が定めた仕組みが意味がなくなる、とも述べました。
解説
個人情報保護法では、個人情報の開示につき「個人情報取扱事業者は、本人(個人情報によって識別される個人)から、当該本人が識別される保有個人データの開示を求められたときは、本人に対し、政令に定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない(法25条1項)。」と定められています。
本件訴訟では、患者2名は、以上の規定が民事上の開示請求権を含むものであるとして、医療法人に対して、診療録の開示を請求したわけです。
今回の東京地裁は、この25条1項が、個人の事業者に対する具体的な開示請求権を定めたものではないと判断しましたので、この判断が定着すれば、企業実務に大きな影響を与える、という見解もあります。
しかし、この裁判例は、当該個人が、民事訴訟において事業者に直接的に開示を求める権利を否定したものに過ぎず、個人情報保護法において事業者の義務として定めた、同法が求める体制の整備や、個人からの求めに応じた適切な措置をとる義務がなくなったわけではないことに十分注意すべきであり、開示請求に応じなくてよいとか、非開示の決定をしても通知をしなくてよいという判断が示されたものではありません。
この点、個人情報を扱う事業者は、コンプライアンスの観点からは、個人情報保護法の趣旨にそった運用を続けるべきことは当然であり、これを怠れば、裁判所からの開示命令がないとしても、行政機関からの報告徴収や勧告、命令、罰金等の行政罰を受けることになりますから、十分に注意が必要であると考えられます。
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