2018-10-30 写真素材のイラスト化と翻案権

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東京地裁平成30年3月29日判決

 A社は、写真等のコンテンツを販売しており、「コーヒーを飲む男性」という題名の写真素材を含む素材集を販売していました。

 B氏は、インターネットで「コーヒーを飲む男性」の画像を検索して出てきた写真素材のサンプル画像を参照してイラストを作成して、同人誌イベントに出品した小説同人誌に掲載し、同人誌を販売しました。

 これに対し、A社はB氏に対し、著作権の侵害に基づく損害賠償請求を起こしました。

 なお、A社の写真素材とB氏のイラストは、判決文別紙に引用されていますが、以下に引用します。

 

裁判所の判断

 裁判所は以下のように判断し、A社の主張を認めませんでした。

・ 翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正等を加えて、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいう。

・ B氏イラストはA社写真に依拠しているものの、イラストと写真素材を比較対照すると、両者が共通するのは、コーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体の男性の、右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分のみである。

・ 他方、B氏イラストとA社写真素材の相違点は多数あり、B氏イラストは、A社写真素材の全体的な表現上の本質的特徴(被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等)を備えているとはいえず、A社写真素材の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえない。

・ したがって、B氏イラストは、A社写真素材の翻案に当たらない。

解説

(1)翻案権とは

 著作権に含まれる権利として、著作物を翻案できる権利である「翻案権」があります。著作権法27条では、具体的に、「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利」と述べられています。

 したがって、第三者は、他者の著作物について複製等ができないだけではなく、これを翻訳したり、翻案することも無断ではできない、ということになります。

 もっとも、他者の著作物に依拠しつつも、結果的に原著作物の表現上の特徴が感じられないほどに異なるに至った場合、全体的に新たな著作物の創作ととして、もはや原著作物の翻案とはいえず、著作権の侵害とはなりません。

 本件では、B氏がイラスト作成においてA社写真素材に依拠したことを認めながらも、イラストと写真素材との間の表現上の本質的特徴の相違から、翻案権の侵害を否定しました。

(2)実務上の留意点

 まず基本的な視点として、何らかの制作活動をする際に、他者の著作物に依拠することは避けることが最善です。本件のように、裁判で争った結果、翻案権の侵害が否定されることもあるでしょうが、原著作物の著作権者との争いを招くこと自体、時間、エネルギー、コスト面での大きな負担が避けられないからです。

 ビジネスの観点でいえば、何らかの事業上の必要で、他者に何らかの制作物の作成を委託することがあるかもしれません。この際に、委託先に対しては、契約書において、著作権侵害などの権利侵害を避けるにとどまらず、厳密に権利侵害にカテゴライズされないとしても、他者の制作物の剽窃などの行為をも避ける義務を課すことも、自社が紛争に無用に巻き込まれることを避けたり、レピュテーションを保護したりする観点から必要かもしれません。

 他方、芸術や表現活動の発展が、他者の創作や表現にインスピレーションを受けて新たな創作や表現がなされることで進むという事実もまた当然です。それで、制作の業務や活動に携わる際には、権利の侵害を避けるために、上のような著作権法の考え方を頭に入れておくことも必要かと思います。

弊所ウェブサイト紹介~著作権法 ポイント解説

弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。

例えば本稿のテーマに関連した著作権法については、

https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/chosakuken/index/
にあるとおり、著作物の定義、利用方法、パブリシティ権の問題、権利行使の方法まで、著作権法に関する解説が掲載されています。必要に応じてぜひご活用ください。

なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。



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