2017-11-02 未登録ブランドと不正競争防止法による保護
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の事例 未登録ブランドと不正競争防止法による保護
最高裁平成29年2月28日判決
X社は、米国のA社との間で、A社製の電気瞬間湯沸器(A湯沸器)につき日本国内における独占的販売代理店契約を締結し、「エマックス」、「EemaX」又は「Eemax」の文字を横書きした商標(X使用商標)を使用してA湯沸器を販売していました。
他方、Y社は、「エマックス」及び「エマックス」と「EemaX」の文字を二段に並べた商標(Y登録商標。指定商品は「家庭用電気瞬間湯沸器、その他の家庭用電熱用品類」)を登録し、A湯沸器を独自に輸入して日本国内で販売していました。X社とY社は、以前A湯沸器の販売代理店契約を結んでいたものの、その後契約関係が解消されて紛争になり、Y社が「エマックス」という商品名を使用しないことを誓約する訴訟上の和解が成立した経緯もあったようです。
そこで、X社がY社に対し、X使用商標と同一の商標を使用するY社の行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当すると主張して、商標の使用差止め及び損害賠償等を求める訴訟を起こしました(このほかX社はY登録商標に無効理由があることも主張していますが、今回は省略します。)。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下の事情を理由として、X使用商標の周知性を認めた原判決を破棄し、原審に差し戻しました。
・ X社を広告主とする新聞広告が掲載されたのは2回だけで、X社が支出した広告宣伝費・展示会費の額も、A湯沸器の販売地域が日本国内の広範囲にわたることを考えると、多額であるとはいえない。
・ X社がこれまでに販売したA湯沸器の具体的な台数などの販売状況も明らかでない。
・ そうすると、X使用商標が日本国内の広範囲にわたって取引者等の間に知られるようになったとは直ちにいうことはできない。
3 解説
(1)未登録商標の不競法による保護の可能性
一般的にブランドを保護するのは商標制度ですが、登録を受けていないブランドは保護される余地はないでしょうか。この点、不正競争防止法を活用できる場合があり、その一つが、同法2条1項1号の「周知表示混同惹起行為」の規制です。
具体的には、同号は、
● 他人の商品等表示として
● 需要者の間で広く認識されているものと
● 同一・類似の商品等表示を使用し、
● 他人の商品または営業と混同を生じさせる行為
を禁止しています。
事業やビジネスを一定期間行っていくと、製造・販売する商品やサービスに一定の評判や顧客からの信頼が生まれ、かつ商品などを識別したり、その出所(製造者や販売者)を表す「表示」や「印」が、一定程度有名(「周知」)になることがあります。
こうした状況において、他社が、このような周知の「表示」を無断で使用し、さらに混同を生じさせるおそれがあるような事態になれば、これは、この他社の信用にただ乗りするに等しく、正当な競争行為とはいい難いため、不競法は、こうした行為を禁止しています。
そして、本件のように、商標として登録されていないような商品名やブランドであっても、「周知」となると、不正競争防止法に基づく保護の対象となり、第三者に対し、使用の差止などを求められる余地が出てくる、というわけです。
(2) 実務上の留意点
しかしながら、ある「表示」が不競法によって保護されるためには、この表示が「周知」であることを立証する必要があるところ、この周知性の立証はかなり厄介です。現実に、本件でも、X社は、高等裁判所では周知性があると認定されながら、最高裁では証拠が不足しているとされてしまいました。
ですから、ある標章について保護を受けるためには、可能な限り、商標登録をすることが最善ではありますし、ある商品に付する標章の選択においては、商標登録可能性を十分に検討の上選択することが望ましいと考えられます。
とはいえ、何らかの事情で商標登録ができず、不競法を武器にせざるを得ないこともあるかと思います。そのような場合、どんな手段で、自社の当該製品の「表示」を立証するのでしょうか。一般的には、周知性についての主な立証手段としては以下のようなものがあります。
・販売期間・販売地域の資料
・売上高・販売数量の資料
・宣伝広告費の金額
・市場シェアの資料
・販売店数、製品流通量
・新聞・雑誌・書籍・テレビ・ラジオにおける当該製品やブランドが
取り上げられた記事(多ければ多いほどよい)
・宣伝・広告の地域・量・内容に関する資料(多ければ多いほどよい)
・需要者に対するアンケート調査
・インターネット、ブログ、SNSにおける書き込み、検索結果
・博覧会や展示会への出展の回数、場所、それぞれの規模
以上のようなリストを見るとお分かりのとおり、多くの資料は、紛争が生じてからあわてて収集してもしきれないものがあります。
それで、普段の業務過程で生じる資料を保存しておくことで、そのような事態をできる限り防ぎ、自社の正当な利益の保護につながることになるかもしれません。また、そのためには、営業部、開発部、宣伝部、知財部などが相互に連携し、スムーズな資料の収集や活用の体制を整えることも重要となってくるかもしれません。
4 弊所ウェブサイト紹介~不正競争防止法解説
弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企
業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。
例えば本稿のテーマに関連した不正競争防止法については
https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/fukyouhou/index/
において、不正競争防止法の各事項について解説しています。
ぜひ一度ご覧ください。
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