2016-07-20 他社の信用を害する行為と不正競争防止法
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
前書き
本稿を執筆しております弁護士の石下(いしおろし)です。いつもご愛読ありがとうございます。
筆者が最近ちょっとはまっている食べ物は「きゅうり」です。猫の額ほどの我が家の庭ですが、それでもきゅうりやトマトやナスなどが毎日収穫できて、味噌をつけて食べるきゅうり(とビール)はどこで食べるものより美味しい気がします(欲目でしょうが)。暑い夏は夏野菜で乗り切ろうと思っている今日このごろです。
では、本文にまいります。
1 今回の判例 他社の信用を害する行為と不正競争防止法
東京地裁平成27年9月29日判決
A氏は、主としてアパートの賃貸業などを行う個人です。B社は、「タタミ染めQ」という畳の塗料の販売の業務を主として行っていました。
A氏は、賃貸アパートの賃借人の入替に伴い、部屋の畳替えに取りかかろうとしましたが、ホームセンターでB社製品を見つけてこれを使用しようと考えました。しかしA氏がその部屋の畳にB社製品を塗布したところ、畳はまだら状態になりました(ただし裁判所は、B社製品に欠陥はなかったと認定しています)。
A氏は、B社製品を販売する複数のホームセンターに複数回訪れ、B社製品は欠陥製品であって、同製品を販売していることが問題である、また、B社が「いい加減な会社」「無責任会社」であるなどと述べた書面を配布しました。
そのため、B社製品を販売する最大手の店舗から、B社は製品の返品を受け、販売中止となってしまいました。
以上の経緯から、B社はA社に対し、不正競争防止法2条1項14号に定める信用毀損行為を理由に、損害賠償等の請求を行いました。
2 裁判所の判断
● 不競法2条1項14号の「競争関係」とは、現実の市場における競合が存在しなくても、需要者又は取引者を共通にする可能性や、将来において同種の商品、役務を提供しうる関係にあれば、競争関係が認められる。
● A氏は、アパートの賃貸業のほか、同アパートの清掃や塗装、リフォームも行っている。他方で、B社は、B社製品(畳の塗料)の販売に加え、塗替えリフォームや不動産関連の事業をも行っている。
● このように、A氏とB社は、不動産の塗装、リフォーム事業において、需要者又は取引者を共通にする可能性があるといえ、「競争関係」は肯定できる。
● A氏が、B社製品の販売店に対して、B社製品には欠陥がありこれを取り扱うべきではない旨を告げたり、B社が「いい加減な会社」「無責任会社」である旨を販売店に告げる行為は、B社の営業上の信用を害する上、虚偽の事実に当たる。
● よって、A氏の行為は、競争関係にあるB社の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為であって、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当する。
3 解説
(1)不正競争防止法と信用毀損行為
不正競争防止法2条1項14号は、競争関係にある他人の信用を毀損する虚偽の事実を告知するなどの行為を不正競争行為としています。
その具体的な要件は以下のとおりです。
a 争いとなっている両者間に競争関係にあること
b ある事実について告知又は流布行為があること
c 2の事実が虚偽であること
d 2の告知又は流布が他人の営業上の信用を害すること
典型的な例としては、競合製品やサービスを扱うライバル会社の取引先に対して、当該ライバル会社の商品について性能が劣る、欠陥がある、苦情が多いなどといった、ネガティブなことをことさらに告げるというケースがあります。
もちろん上の告知内容が真実であれば、上のcの要件に該当しませんから、不競法2条1項14号の不正競争行為には該当しません(ただし、名誉毀損等他の理由で違法となる可能性はあります)。
しかしこのような場合、往々にして、他社商品についてきちんとした裏づけを得ずに述べることが少なくありません。ですので、安易な行為が結果的に不正競争行為と認定されると、会社として以下のような厳しい措置が認められることになる場合がありますから、十分に注意が必要です。
a 差止請求
b 信用回復請求(謝罪広告とか、取引先に対して謝罪文を発送させるなどの方法)
c 損害賠償請求
(2)実務上不競法2条1項14号が問題となりうるケース
実務上不競法2条1項14号が問題となりうるケースとして、以下のような場合があります。
まず、自社が特許権を持っていて、ライバル会社の製品がこの特許権を侵害しているように見える、という場合です。この場合、ライバル会社の取引先・販売先に対し、当該ライバル会社の製品が特許侵害品である、と言いたくなる気持ちは十分想像できますし、取引先や販売先への抑止効果が相当に効くことは容易に想像できます。
しかし、こうした告知を行った後、結果的に、裁判で特許権の侵害が否定されたり、又はその特許権が無効となった場合、場合によっては、この「特許権の侵害」という告知が不正競争行為として責任を問われる可能性があります。
また、自社製品の販促資料の中に、他社製品と性能、機能、仕様を比較した比較表を含めることもあるかもしれません。この場合も、もしその比較表に記載された他社製品の機能についての記載が誤っている場合、こうした比較表の配布が不正競争行為に該当することがありえます。実際、大阪地裁平成22年1月28日判決では、こうした比較表の配布を不正競争行為と認定しました。
以上のとおり、事業者間での競争の中で、他社商品についてネガティブな事実に言及する場合、不競法2条1項14号を意識する必要があります。例えばこの点、営業担当の従業員が、自己の判断で十分な調査もなく他社やその製品について述べる文書を営業資料として配布するような事態があるならば、会社としてはノーチェックだったとしても、会社が責任を負わなければなりません。
それで、営業資料は、会社全体として監修・管理するなど、会社全体として取り組む事が必要となるかもしれません。
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