2016-03-01 懲戒解雇と弁明の機会
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
今回の判例 懲戒解雇と弁明の機会
宇都宮地裁 平成27年6月24日判決
A氏は、自動車エンジン・車体等の金型や設備製造等を営むB社の従業員でしたが、B社から懲戒解雇を受けました。
これに対しA氏は、懲戒解雇事由がないこと、懲戒解雇手続が違法であること等を理由に懲戒解雇が無効であると主張しました。
裁判所の判断
裁判所は懲戒解雇を有効と判断しましました。以下、主として本稿のテーマである手続的側面を中心に判断の理由をご紹介します。
● A氏は、上司からの度重なる業務命令に従わず、36日間無断欠勤を継続したなど、懲戒事由の程度は重大であった。
● B社の就業規則においては弁明の機会を与える旨の規定は置かれておらず、懲戒をするに当たっては労使の代表者で構成する賞罰委員会を開くこととされており、就業規則上の手続は履践されていた。
● このような場合、A氏が主張するような、弁明の機会を付与しないことをもって直ちに懲戒手続が違法であるということはできない。
解説
1)懲戒処分の有効性の要件
企業がその従業員を懲戒処分にする場合であって、従業員がこれを争う場合、その有効性が問われることとなります。
一般に懲戒処分が有効となるためには、以下の要件が必要と考えられています。
a)懲戒事由に該当する事実・就業規則上の懲戒事由の存在
b)懲戒処分の相当性(平等性、違反事実と処分のバランス等)
c)適正手続
このように、懲戒処分の有効性の根拠としては、内容面(懲戒処分事由や相当性)だけでなく、手続面における履践も重要視されます。
そのため、実務上は、懲戒処分にあたっては、本件のような賞罰委員会といった制度、労働組合との協議といった取決めのほか、本人の弁明の機会の付与が定められていることも珍しくありません。そして、懲戒処分をするにあたっては、就業規則上定められた手続を履践することは重要であるといえます。
(2)弁明の機会の付与と懲戒処分
では、就業規則上「弁明の機会」が定められていない場合、この弁明の機会は懲戒にあたっては必須なのでしょうか。
この点確かに、本件も、また少なからぬ他の裁判例でも、弁明の機会がないからといって懲戒処分が無効とはならないとしています。しかし、弁明の機会の付与は常に不要、と解することはリスクがあると考えます。
それは、前述のとおり、裁判所が、懲戒処分にあたっては、会社が当該処分に至るまでいかなるプロセスを経てきたかという手続的側面を重要な要素と見るという姿勢は変わらず、実際、弁明の機会が付与されていないことを理由に懲戒処分の効力を否定した例も少なくないからです(例 東京地裁平成24年11月30日判決日本通信事件)。実際、会社が拙速に走って「問答無用」で懲戒処分をするならば、裁判所に与える心証は良いものとはいえないという場合は少なくありません。
それで、就業規則上弁明の機会を付与すべき旨の定めがある場合はもちろん、そうでない場合も、被懲戒者に対する弁明の機会をできる限り付与することは、望ましいことではないかと考えられます。懲戒解雇といった重い処分を予定している場合や、懲戒対象者が懲戒事由に関する事実を争っている場合には特にそうです。
また、弁明の機会を与えたといっても立証できなければその意味は半減します。それで、当該弁明の場のやりとりや弁明の内容をきちんと記録化することも重要と考えられます。
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