2015-12-15「湯~とぴあ」商標と商標の識別力
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 「湯~とぴあ」商標と商標の識別力
知財高裁平成年11月5日判決
A社は、「ラドン健康パレス」と「湯~とぴあ」の二段構成の商標の商標権者です。
そして、A社は、「湯~トピアかんなみ」という標章で入浴施設を運営する地方公共団体B町に対し、商標権侵害を主張しました。
なお、以下がA社商標(左)とB町標章(右)の具体的な画像です。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のとおり判断して、商標権侵害を認めた一審判決を取り消し、A社の請求を認めませんでした。なお、以下の要約は分かりやすさを重視しています。
● 「ゆうとぴあ」との語は、「湯」の漢字を含むか否かを問わず、全国的に、入浴施設というサービスに広く使用されている。
● A社商標のうち、下段の「湯~とぴあ」の部分は識別力が弱く、需要者がサービスの「印」として強く支配的な印象を受けないため、この部分だけを抽出したB町標章との比較はできない。
● 上段の「ラドン健康パレス」も、「ラドンを用いた健康によい温泉施設」という一般名称的な意味であり識別力が弱い。
● そうすると、A社商標は、上段と下段が結合してはじめて「ラドンを用いた健康によい温泉施設であって、理想的で快適な入浴施設」であることが明確になるから、「ラドン健康パレス」と「湯~とぴあ」は不可分一体として理解される。
● したがって、A社の商標は、全体として一体的に観察して、 B町の標章との類否を判断すべきである。
3 解説
(1)商標の識別力と権利の範囲
複数の語で構成される登録商標について、他社がその一部の語をその標章に使っているという場合、商標権侵害は成立するのでしょうか。
この点、ある登録商標と、問題となる標章を比較する場合、通常は全体どうしを比較しますが、ある場合には、「要部」を抽出して、これらを対比するという作業を行うことがあります。
それは、ある標章を構成する語のうち、出所識別機能を有する部分とそうではない部分があるからです。
例えば、飲食店の商標として「レストランABC」とあれば、通常「レストラン」の部分は出所識別機能を有さないため、出所識別機能を有する「ABC」の部分が要部になります。
本件では、A社の商標は「ラドン健康パレス」と「湯~とぴあ」で構成される商標であり、前者が一般的な用語であることを考えると、一見、「湯~とぴあ」が要部ともなりそうに思える、微妙なケースだったように思います。
(2)商標の希薄化とその原因
商標として登録された名称であっても、その後、その商標やその一部の語が広く使われるようになると、その識別力が希薄化し、さらには普通名称となってしまうことがあります。
つまり、登録時には、ある名称が、特定の企業が提供する商品を識別する「印」としての機能を有していたところ、徐々にその機能が弱まって消失し、需要者の間で、その商品やサービスを表すありふれた、または一般的名称として意識されるに至ることがあります。
それで、商標が取れたとしても、放っておくと、その識別力が弱くなってしまいますので、きちんとした商標の管理が必要です。
商標の識別力が弱くなる原因にはいくつかありますが、そのひとつは、商標権者がブランド管理を怠った場合です(なお、これは本件について言っているわけではなく、一般論です)。
つまり、ある商標が広く知られたり、もともとその言葉が多くの人に思いつきやすい言葉の場合、知ってか知らずかこれを同種の商品やサービスに使用しようとする事業者が多く出現するようになります。
このときに、商標権者が、適切な警告などの措置をせずに放置すると、多数の事業者がその商標を広範囲に使用するようになり、消費者などから見ればその商標を見ても特定の会社の提供する商品の名称であるという認識を持たないようになり、商標が識別力を失うということがあります。
そして、商標の識別力が弱まると、その権利範囲も狭くなるため、他者の使用が止められず、その商標権を保有していた企業にとっては、少なからぬ財産的損失となることがあります。
それで、商標権者は、自社商標の価値を維持するために不断の努力を払う必要があります。つまり、同業者等が自社商標やその重要なキーワードを無断で使用していないか、また、市場において自社の登録商標が商品やサービスの慣用的な名称として使用され始めていないか、等を常に監視します。
そして、他社の使用や不適切な慣用的名称としての使用が発見された場合には、適切な対処をする必要もあります。
具体的には、適宜に警告を発したり、不適切な慣用的名称に対しても、使用を中止してもらう、表現を改めてもらう、この名称が自社の商標であることを明示してもらう、といったことを求めていけるかもしれません。
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