2015-06-09 共同出願・特許権の共有の取扱
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 共同出願・特許権の共有の取扱
知財高裁平成27年4月13日判決
A社は、「心血管の機能を向上する為の組成物及び方法」という名称の発明を特許出願しました。その後A社は、この特許を受ける権利を、B社との共有となるよう譲渡しました。
しかし、この出願については拒絶査定がなされ、さらに、不服審判においても拒絶査定が覆されることはありませんでした。
それで、出訴期間満了日である平成26年7月23日、審決取消訴訟が提起されましたが、同訴訟はA社のみが原告名義となっていました。その後、B社は、出訴期間後である同年8月1日、共同訴訟参加の申出をしました。
2 裁判所の判断
裁判所は以下のとおり判断し、訴えを不適法として却下しました。
● 特許を受ける権利の共有者が提起する審決取消訴訟は、共有者が全員で提起することを要する(いわゆる固有必要的共同訴訟)。
● 出訴期間の定めがある訴えについては、共同原告として参加する参加申出は、出訴期間経過後はできない。
● よって、本件は、共同訴訟人となるべき者が脱落しているといえ、訴えは不適法である。
3 解説
(1)特許権の共有の概要
特許権の共有とは、1個の特許権を2名以上で共同して所有することをいいます。
特に、技術の複雑化・高度化に伴って、1企業・1組織内のみならず、産学、産官、民間どうしで技術の共同開発することが近年多くなってきており、その結果、開発成果である特許権の共有が増えています。
また、諸々の理由で、特許権や特許を受ける権利の一部が譲渡され、これらの権利が共有されるに至るという場合も少なくありません。
(2)共有特許の扱いにおける留意点
特許権の共有は、共同開発の結果としては自然な流れではありますが、意外と扱いが面倒な点があることに留意する必要があります。本稿では特に、特許の実施やライセンスを中心に触れたいと思います。
まず、特許法上、特許の共有者が「自ら共有特許を実施する場合」には、他の共有者の同意は不要とされています。共有者間であえて合意しない限り、実施料などを支払う必要もありません。
他方、共有者の一部が、共有特許を第三者にライセンスしたり、共有特許の持分を譲渡する場合、他の共有者の同意が必要とされています。
例えば、開発専業であり、製造能力がなく、開発成果の譲渡やライセンスから収益を得ようとするX社と、大手メーカーY社が共有で特許を取得したというケースを考えます。この場合、製造能力があるY社は特許を自ら実施して収益を得られるのに対し、製造能力がないX社は、Y社の同意が得られなければ、その特許を譲渡もライセンスもできず、宝の持ち腐れに終わってしまう、という事態が想定しえます。特に、X社とY社の間で、何らかの理由で関係が悪化したという場合は、こうした懸念は現実化すると考えられます。
また、上のようなケースは、企業と大学の共同研究開発でもいえるかもしれません。
それで例えば、自社がX社のような立場の場合には、遅くとも出願に入る前までには、共同開発契約や共同出願契約を締結し、一方の共有者が当該特許を実施した場合には、自己実施であっても他方に対して実施料を支払うといった定めをしておくことが有効な手立てとなることがあります。
また、これらの契約において、各共有者が、一定の条件のもと、他の共有者の同意なくライセンスできる範囲を定めておくのも有効かもしれません。
他方、産学の共同開発において、メーカー側の立場では、共同研究者の大学・研究機関から、共有持分を譲り受けるということを考えてみてもよいかもしれません。なぜなら、大学側としては、出願費用の負担を回避し、むしろ共有持分を譲渡して研究費を早期に回収したいと考えている場合もあるからです。
そして、メーカー側としては、共有持分の譲渡を受けて自社単独出願とすれば、その後の手続は、タイミングも含め、すべて自社の判断で行えますし、特許の共有に伴う面倒な扱いも回避できます。それで、上のような早期の共有持分の譲渡は、メーカーと大学双方にメリットが生じるスキームとなり得るわけです。
以上のとおり、共同研究・開発を行う場合には、自社・自機関の立場と能力、関与目的や得たい成果、収益化のスキームなどに照らした、長い目で見た検討が必要となります。この点で契約書の作成は重要であり、特許法に通じた弁護士のサポートも受けながら、スキーム全体や契約条件について慎重に検討することは考慮の価値があると思われます。
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