2014-03-25 「反社会的勢力」と錯誤無効

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1 今回の判例     「反社会的勢力」と錯誤無効

 

東京地裁平成25年8月13日判決

 A信用金庫は、反社会的勢力関連企業であるB社に対して貸付を行い、信用保証協会であるC協会は、これについて信用保証契約を締結しました。

 その後、B社の支払が滞ったため、A信用金庫は、C協会に対し貸付残元利金の支払いを求めましたが、C協会は,B社が「反社会的勢力」であったのに,そうではないと信じて前記保証契約を締結したから、同保証契約は錯誤により無効であると主張して,Xの請求を争いました。

 

2 裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり判断しました。

  • 政府が公表した「信用保証協会向けの総合的な監督指針」等で反社会的勢力との関係遮断の取組みが求められており、C協会が公表した資料にも、暴力団が介在する申込みについては信用保証を利用できないことが明記されていた。また、B社とC協会との信用保証委託契約にも、反社会的勢力排除条項が規定されていた。
  • それで、C協会は、主債務者B社が反社会的勢力関連企業であることが判明していれば、信用保証契約を締結することはなかった。
  • したがって、前記信用保証契約においては、C協会に「錯誤」があったから、信用保証契約は民法95条により無効である。

 

3 解説

(1)「錯誤」とは

 「錯誤」(民法95条)とは、ある契約について、内心の意思と契約に示された内容に齟齬がある場合、その契約は無効となる、というものです。例えば、100ドルで売るつもりを、100円で売ると言ってしまった場合がその例です。

 また、契約の動機となる事実に錯誤がある場合にも、無効を主張できる場合があります。今回の事例でいえば、C協会は、主債務者が反社会的勢力ではないことが契約の動機の一つでしたが、事実はそれと異なっており、ここに「錯誤」があったわけです。

(2)錯誤が認められる場合

 ただし、錯誤による無効が認められるためには、まずはそれが「法律行為の要素」に関するものである必要があります。「要素」とは、その錯誤がなければその契約をしなかったといえるほど重要な部分のことです。

 例えば、過去の判例では、仮差押の対象となったジャムが通常の品質であると誤信して和解契約をしたところ、それが粗悪品であった場合に、「要素」と認められたケースがあります。

 もう一つの重要な要件は「重過失がないこと」です。つまり、錯誤(勘違い)があった側に、重過失(一般人に期待される通常の注意を著しく欠いていたこと)がある場合は、無効を主張できない、ということです。

 「錯誤」のケースは、重過失があることを理由に無効の主張が認められないことが少なくありませんが、契約上の紛争が生じた場合に主張しうる一つの選択肢となることでしょう。

(3)取引契約と反社会的勢力の排除

 近年、特に全国の自治体で暴力団排除条例が施行されてからは、企業間の取引契約において、反社会的勢力の排除の趣旨を明示する流れが明確になりました。

 それで、多くの企業は、自社提示の契約書に反社会的勢力排除条項を入れるようになっていますし、相手方から提示された契約書案にその規定がないときは挿入を要請したりしますが、そうした流れに沿った妥当な処理であるといえます。

 実際、ある取引先が後日たまたま反社会的勢力に関係することが判明したとしても、契約において反社会的勢力排除条項がなければ契約解除・取引の打切は難しく、自社としてはレピュテーションのリスクを負うなど、苦しい立場になることが考えられます。この点を考えても、契約書に反社会的勢力排除条項を入れるという扱いは重要であると考えます。

 また、反社会的勢力排除条項がない契約がすでに存在し、しばらく契約期間が続く場合や、自動更新の規定等を理由に契約を書き換える必要性がないという場合もあります。この場合、契約書とは別に、反社会的勢力排除条項だけを「覚書」といった形で締結することも実務上は珍しくありません。取引先が非常に多い場合の手間やコストなどを考えると難しい場合もあるかもしれませんが、検討の価値はあることと思います。

参考ページ:取扱内容詳細 契約書作成・点検 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/keiyaku/


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