2014-07-23 「遠山の金さん」と登録商標
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 「遠山の金さん」と登録商標
知財高裁平成26年3月26日判決
映画等の制作会社A社は、「遠山の金さん」という商標登録を得ていました。その指定商品には、「パチンコ型スロットマシン」や「遊園地用機械器具(業務用テレビゲームを除く。)」が含まれていました。
これに対し、広告代理店B社などが、当該商標登録は歴史上の人物の著名性に便乗するものであって公序良俗に違反するとして当該商標登録の無効審判を起こしましたが、請求は不成立と判断されました。
そのため、当該審決の取消しを求めた訴訟が本件です。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のとおり、A社の商標登録は有効と判断しました
- 実在の人物をモデルとする作品の場合、当該作者が史実にどの程度基づいて当該人物を描いているかによって、実在の人物と同一視できるか否かが決まる。
- モデルとなった人物である遠山景元の実際の通称や仕事ぶりについての客観的資料が乏しく、史実に則して主人公を描くことが困難であったことから、近時定着したストーリーは、実在した遠山景元の仕事の忠実な再現というよりも、虚構を交えた娯楽性のある創作物という側面がある。
- 「遠山の金さん」は実在した遠山景元そのものではなく、これをモデルとした作品のタイトル名や主人公名であって、特にA社の制作に係るテレビ番組のタイトル名や主人公名を想起させる。
- 「遠山の金さん」がテレビ番組のタイトル名ないし主人公名にすぎず、本件商標によって「遠山景元」という歴史上の人物の名前を独占してしまうという公益性のある社会的問題が生じる余地はなく、本件商標によって失われる公益は想定し難い。
3 解説
(1)商標法4条1項7号の登録拒絶理由
商標法は、どんな商標でも登録を認めるわけではなく、一定の言葉や内容については、だれでも商標の登録ができないと定めています。そしてこれを登録拒絶理由といいます。
そして商標法4条1項7号もこれら登録拒絶理由の一つであり、同号には、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある」(公序良俗に反する)商標は商標登録を受けることができないと規定されています。
(2)歴史上の人物名が商標登録できない理由
本件で問題となった、歴史上の人物名からなる商標の登録は、一般に公序良俗に反すると考えられています。
例えば、歴史上の人物の名は、その発祥地の商品や観光地のお土産などに利用されていたり、行政が地域振興に使うといったことが多くあるため、特定の人物や会社が商標登録してその名前を独占できるとなると、多くの関係者の利害に影響を与えます。
また、歴史上の人物名の使用を特定人に独占させることは、その人物の子孫の感情や、歴史上の人物を敬愛する多くの人(特に発祥地の住民)の感情を害するなど、国民感情にも反する場合が少なくありません。
そのような理由から、歴史上の人物名の商標登録は、公序良俗に反すると考えられています。
(3)実務上の留意点
もっとも、歴史上の人物名であれば商標登録がすべて公序良俗違反とされるわけではなく、過去には「弁慶」「家康」「石川啄木」などが商標登録されています。
しかし、平成21年10月21日に改訂の商標審査基準で基準が厳格化されたことなどから、現在では、歴史上の人物名そのものを登録できる可能性は低いと考えておくほうがよいと思います。
もっとも、今回の「遠山の金さん」のように、登録の余地のあるものもあります。このケースのように、歴史上の人物との関連性、歴史上の人物と当該商標との同一性について消費者がどう見ているか、これまでの使用状況や使用実績、商標が登録された後、他者が当該人物名を使用することについて支障が出るか否かなどの観点から、人物名そのものは無理な場合も、工夫をすれば登録できる余地もあります。
また、過去に商標の登録を受けてしまって現在も有効な、歴史上の人物名に関する登録商標もあります。それで、歴史上の人物名なら大丈夫だろうと安易に商品名に使用せず、一応他社の登録状況を調べることも重要かと思われます。
参考ページ:商標法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/shouhyou/index/
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