2014-07-01 疾病による就労不能を理由とする解雇の留意点
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 疾病による就労不能を理由とする解雇の留意点
東京地裁平成25年10月4日判決
A社の従業員として経理・輸入業務サポートに従事していたB氏は、平成22年5月にギラン・バレー症候群・無顆粒球症という難病を発症したとの診断を受け複数の病院で入院治療を受るなどし、以来平成24年1月の解雇時まで就労できませんでした。
また医師の診断でも、B氏について「起立不能、上肢機能全廃」「独歩困難、手指機能障害」等、労務不能との診断が続いていました。
以上の経緯から、A社は、平成24年1月16日、就業規則に定める解雇理由「身体の障害により、業務に耐えられないと認められたとき」等に該当するとして、同年2月20日付で解雇予告しました。
これに対し、XがY社に対し、当該解雇予告は権利の濫用であり無効であると争ったのが本件です。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下の事情を考慮して、解雇予告は有効と判断しました。
- B氏の症状の経過から徐々に回復していた様子は窺われるものの、就労不能の旨が診断されていた上、B氏の業務内容からすると、制限勤務であっても就労が不可能であったと認められ、A社就業規則の「身体の障害により、業務に耐えられない」に該当することから、解雇予告には客観的に合理的な理由がある。
- B氏は入院から解雇予告までの約1年7ヶ月就労できない状態にあった。その間、3ヶ月分の給与支払の条件での退職というA社からの打診に対し、B氏が失業保険の関係で欠勤期間を平成23年11月以降まで延長してほしいと要望し、A社もこれに応えて解雇を見合わせていたことなどを考えると、本件解雇予告に社会通念上相当と認められない事情があるとは認められない。
3 解説
(1)傷病により労務を提供できない労働者の解雇
従業員が何らかの傷病を発症して長期間欠勤が続いている上、回復の見通しが立たないので雇用を終了させたいといった状況が生じ、しかも当該従業員が退職に応じない場合、経営者としてはどうすればよいでしょうか。
従業員が私傷病(つまり業務上の原因で発症した傷病でないこと)により会社の業務に耐えられなくなったのであれば、雇用を終了させることも一般論としては可能です。しかし、解雇に踏み切る前に、幾つかの慎重な考慮を要することがあります。それは、解雇に(a)客観的に合理的な理由があるといえることの確認と、(b)社会通念上も解雇は致し方がないと判断される程度に必要な対応を行うことです。
(2)解雇の合理的な理由の確認と証拠の確保
まず(a)に関しては、正確な病状と就労との関係について把握することが重要となります。この点、医師の診断なしに会社が就労不能と判断することはリスクが高いですし、他方診断書だけで判断することも必ずしも十分とはいえません。
この点、適切な判断のためには、会社の業務遂行に必要とされる身体機能の回復状況や回復見込期間などを、本人や家族、また本人の承諾を得て医師から聞き取り、都度証拠化することが望ましいといえます。診断書は本人の主治医のほか、会社の産業医にセカンドオピニオンを求めることで客観性を高めることも検討できます。
(3)解雇回避の努力
以上のとおり病状や就労との関係を把握するほか、 (b)との関係では、解雇が致し方がないと判断できる程度に、できる限り解雇を回避するための努力をすることが重要といえます。
例えば、休職期間を設定することが必要な場合もあることでしょう。また、より負担の少ない業務への変更や配置転換が可能かを検討すべきケースもあります。この点、最終的には他の業務への変更や配置転換が難しいという結論になるとしても、実質的かつ真摯に検討したというステップを踏むことがものをいうこともあります。
また、本件では、会社として従業員の要望にも可能な範囲で配慮して解雇を遅らせていた点が評価されています。同様の配慮ができるかを検討することも重要といえます。
筆者も多くの会社から相談を受けている経験上、早期に解雇して問題に決着を付けたいという心情は理解できますが、多少の時間を要したとしても、長期的な視点から必要な手順を踏むことは、訴訟リスク又は敗訴リスクを減らすものになると考えます。
参考ページ:労働法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/
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