2013-08-06 商標の使用による識別性
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 商標の使用による識別性
知財高裁 平成25年1月24日判決
井村屋が、指定商品を「あずきを加味してなる菓子」とする商標「あずきバー」を出願したところ、特許庁は以下の理由で拒絶査定を出し、審判でも同様の結論でした(今回は2つの理由だけ取り上げます)。
1)本商標は、その商品の品質、原材料、形状を普通に用いられる方法で表示したものにすぎないので、商標法3条1項3号にあたり、登録できない。
2)本商標がその指定商品について使用された結果、需要者が井村屋の商品であると認識できるまでに至ったとはいえないから、商標法3条2項により例外的に登録できる場合にもあらたない。
これに対し、井村屋が提起した審決取消訴訟が本件です。
2 判決の内容
裁判所は、以下のように判断しました。
1)「あずきバー」という語が菓子類の名称として用いられた場合、やはり需要者はあずき又は小豆餡から作られた棒状の菓子を思い浮かべるので、普通に用いられる方法の表示であることは否定できない。しかし、
2)井村屋の主張する事実や、井村屋以外で「あずきバー」の名称を使用している他社が、わざわざ「セイヒョー金太郎あずきバー」のように自社名を付けて差別化を図ったり、「ライバルは井○屋!」とウェブページに記載するなど、あずきバーと井村屋の関係を意識していることからすれば、需要者の間で井村屋の「あずきバー」が高い知名度を得ていることが認められるから、3条2項の識別性があるといえる。
したがって、3条2項の例外要件にあたるので、登録できる。
3 解説
(1)商標法3条2項とは
3条2項は、本来は自他商品・役務識別力がなく3条1項3~5号に該当して登録できない標章でも、ある商品役務について永い間使用された結果、自他商品・役務識別力を持つに至った場合には、例外的に登録が認められる、と定めた規定です。
例えば、指定商品「ドーナツ」について商標「ミルクドーナツ」として出願したというケースがあります。通常このような出願は、その商品の産地、品質、原材料等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるという理由(商標法3条1項3号)で登録できませんし、現に当該出願は過去に拒絶査定を受けました。
しかし、この出願についての審決取消訴訟においては、永年使用による識別性が認められ、登録が認められました(ミルクドーナツ事件)。
もっとも、商標は、識別標識として機能し得るだけの特徴が必要ですから、あくまで3条1項3~5号のとおり、それ自体に本来は自他商品識別機能がない商標は登録できないのが原則であり、3条2項の適用は例外的と考えられています。
それで、3条1項各号に該当するような商標は登録可能性が下がる以上、初めから3条2項に期待するのは賢明ではなく、商標の選定において、1項に該当するものは極力避けた方がよいといえます。
(2)実務上の留意点
それでも、仮に3条1項に該当すると思われる商標を選定したいと考え、将来的に3条2項の適用を狙うことも念頭に置いて準備しておこうという場合は、どんな証拠を保全・確保しておく必要があるでしょうか。
3条2項に該当するか否かの判断は、使用されてきた標章の外観が出願商標と同一であることに加え、使用開始期間、使用期間、使用地域、使用態様、販売数量、類似した他の標章の存否等を総合考慮してなされます。
この点、今回の判決では、販売数、発売以来の宣伝広告・テレビコマーシャルの実績(毎年7月1日を「井村屋あずきバーの日」と定めCM放映していること)や、グーグル検索・他社のウェブページにおける言及のされ方などが注目されました。
したがって、まず基本的なものとして販売数に関する伝票・領収書・帳簿関係、商標が付された歴代の商品の写真を残しておくほかに、当該商品について行った宣伝広告・キャンペーン等の資料(自社以外の媒体に掲載されたものがあればなお良い)を随時確保しておくことや、自社の商品をインターネット上で色々な条件で検索しそのデータを保存しておくことが欠かせないでしょう。
参考ページ:商標法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/shouhyou/index/
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