2013-03-19 図面の著作物・図面に基づく製品の製造

ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。

学術的・難解な判例の評論は極力避け、分かりやすさと実践性に主眼を置いています。経営者、企業の法務担当者、知財担当者、管理部署の社員が知っておくべき知的財産とビジネスに必要な法律知識を少しずつ吸収することができます。メルマガの購読(購読料無料)は、以下のフォームから行えます。

登録メールアドレス   
<クイズ> 
 これは、コンピュータプログラムがこの入力フォームから機械的に送信することを防ぐための項目です。ご協力をお願いいたします。
 

なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。

以下の検索ボックスを利用して、トピックページ(メルマガバックナンバー)から検索できます。

1 今回の判例  図面の著作物・図面に基づく製品の製造

大阪地裁平成24年12月6日判決

A社がB社に対し、A社が開発・製造・販売する製品(攪拌造粒機)の主要部分の製作を委託する取引を続けてきましたが、平成21年8月31日をもって同取引は終了しました。

取引においては、A社がB社に対し、A社が作成したA社製品に関する設計図面を開示し、B社はこれに基づいて原告製品を製造していました。

取引終了後、B社は、別の会社C社から攪拌造粒機の製造委託を受けて製造販売しました。これに対し、A社は、B社のこの製品についてA社の特許権侵害等の主張のほか、B社が、A社製品の図面を使用してB社製品又はその構成部品の製造を行うことが、A社製品の図面に係る著作権(複製権又は翻案権)を侵害すると主張しました。

この事件においては争点は多数ありますが、本稿では、著作権侵害についてのみ取り上げます。

 

2  判決の内容

裁判所は以下のように判断しました。

  • 本件でA社製品図面であるとして提出された設計図面は通常の作図法に従って記載されているところ、A社は、設計図面のうちどの部分が著作物性を有するのか等について具体的な主張をしておらず、製品図面は著作権法上の著作物といえない。
  • 本件でA社製品図面であるとして提出された設計図面は通常の作図法に従って記載されているところ、A社は、設計図面のうちどの部分が著作物性を有するのか等について具体的な主張をしておらず、製品図面は著作権法上の著作物といえない。
  • したがって、B社がB社製品又はその構成部品の製造をすることが、図面に係るA社の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると見る余地はない。

 

3 解説

(1)設計図の著作権法上の位置づけ

 少なからぬ方が誤解している点ですが、設計図といった図面がすべて著作物となるわけではありません。

 設計図は、「学術的な性質を有する図面」(著作権法10条1項6号)として著作物となりえます。しかし、著作権法の保護を受ける著作物は、同法2条1項1号のとおり「思想又は感情を創作的に表現したもの」である必要がありますから、著作物として保護される設計図又はその一部とは、制作者の創作的な(個性が表されている)表現が示されている部分ということになります。

 そして、設計図の主たる機能は情報の正確な表現であり、どの技術者もその設計図を読めば同じ情報を読み取ることができる必要があります。そのため、実際には、設計図において、創作的な表現が認められ、もって著作物として保護されるという範囲は、非常に限られている、という点は頭に入れておく必要があると思われます。

(2)設計図に基づく製造と著作権侵害

 また、設計図に基づき製品を製造する行為を、著作権自体で差し止めることも通常は困難です。

 例えば著作権の代表的な支分権である「複製権」は、その著作物自体を複製する権利です。つまり、仮にある設計図が著作物であるとした場合であっても、その設計図自体の複製はその設計図の複製権侵害となりますが、設計図に基づいて物を製造することは複製権侵害にはならないというのが判例の考え方です。また日本では、設計図の翻案権(著作権法27条)の侵害にも該当しないと考えられています。

(3)設計情報の保護のための他の措置

 以上を考えると、他者に設計図面を開示する場合、他に対策を講じなくても、設計図面には著作権があるから大丈夫という考え方は自社の利益保護の観点から大きなリスクがあるということになります。

 ● 開示する情報の範囲の選別

「信頼関係がある」という理由で安易にすべての情報を開示しせず、本当に重要なコアは自社で処理できないか検討する。

 ● 秘密保持契約の締結

できるかぎり秘密情報を特定する。

 ● 特許・実用新案等の出願

著作権は表現を保護するのに対し、設計図に具現された技術的思想を保護することを本来的機能とするのは、特許や実用新案です。

 

参考ページ:著作権法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/chosakuken/index/


メルマガ購読申込はこちらから

弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」は、以下のフォームから行えます。

登録メールアドレス   
<クイズ> 
 これは、コンピュータプログラムがこの入力フォームから機械的に送信することを防ぐための項目です。ご協力をお願いいたします。
 

 なお、入力されたメールアドレスについては厳格に管理し、メルマガ配信以外の目的では使用しません。安心して購読申込ください。



法律相談等のご案内


弊所へのご相談・弊所の事務所情報等については以下をご覧ください。



Copyright(c) 2014 弁護士法人クラフトマン ITに強い、特許・商標に強い法律事務所(東京・横浜) All Rights Reserved.

  法律相談(ウェブ会議・面談)

  顧問弁護士契約のご案内


  弁護士費用オンライン自動見積


   e-mail info@ishioroshi.com

  電話 050-5490-7836

メールマガジンご案内
ビジネスに直結する
判例・法律・知的財産情報


購読無料。経営者、企業の法務担当者、知財担当者、管理部署の社員が知っておくべき知的財産とビジネスに必要な法律知識を少しずつ吸収することができます。

バックナンバーはこちらから