2012-06-26残業手当込の基本給と労働基準法
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 残業手当込の基本給と労働基準法
最高裁 平成24年3月8日判決
派遣労働者A氏は、派遣会社B社との雇用契約を締結し、就労していました。
雇用契約では、あらかじめ基本給の額を定め、月間総労働時間が180時間を超えた場合には超えた時間につき1時間あたり一定額の残業手当を支払うが、月間総労働時間が140時間に満たない場合にはその満たない時間につき基本給から1時間あたり一定額を差し引いて支給する旨の定めがなされていました。つまり、基本給にあらかじめ残業手当が含まれていたことになります。
しかし、A氏は、労働基準法37条1項に定める残業手当が適正に支払われていなかったとして、B社に対し支払を求めました。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のように判断しました。
(1)基本給の一部が他の部分と区別されて時間外の割増賃金とされていたわけではなく、時間外労働の時間は月によって大きく変化するため、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することができない。このため、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働について割増賃金が支払われたとすることはできない。
(2)A氏は、割増賃金の支払を受けなくてもよい旨の意思表示はしていない。
(3)したがって、B社はA氏に対し、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働についても,本件雇用契約に基づく基本給とは別に、労働基準法37条1項の規定する割増賃金を支払う義務を負う。
3 解説
(1) 残業手当の定額払い
労基法の定めの一つとして、使用者は、労働者が労基法に定める法定労働時間を超えて労働をした場合、労働者に対して超えた分の労働時間に対する割増賃金つまり残業手当を支払わなければならないとされています(労基法37条1項)。
しかし、職種や業種によっては、残業・深夜労働の時間数の算定が難しい等の理由で、実務上、その都度残業手当を計算するのではなく、本件のように、あらかじめ残業手当込みの金額を定額の基本給として支払うケースがあります。
この方法は、残業時間に対応した残業手当がきちんと支払われる等一定の要件が満たされている限り、違法ではありませんし、会社にとっては事務の簡便化やコスト削減につながるというメリットがある場合もあることと思います。
しかし、この残業手当の定額払いは、裁判例に示された裁判所の考え方を踏まえ慎重に制度設計しないと、いざ争われた場合に効力が否定されてしまうことがあります。それで以下、裁判所の考え方の概要をご説明します。
の2種類があります。
(2) 残業手当の定額払いの要件
裁判例の考え方をまとめると、残業手当を定額として基本給に含めて支給する場合は、おおむね少なくとも以下の要件を満たす必要があると考えられます。
- 労基法に基づいて計算した残業手当以上の額が支給されている
- 基本給のうち残業手当にあたる部分が明確であり、金額的内訳を明示する
- 実際の時間外労働に対する割増賃金が固定残業手当の額を下回っている場合は、その差額を支払う
一般に周知性の立証は大きな困難が伴いますので、商品形態模倣行為に基づく請求はこの点での立証の負担がなく、他社による模倣に制限を課すための有力な手段となり得ます。
他方で、以下の点に注意が必要です。
(3)実務上の対応
以上を考えると、残業手当の定額払いを実施している企業は、自社の運用方法が、労基法を含む関係法規や裁判所の考え方に照らして適正なものか否か、検討する必要があるように思われます。
そして、必要に応じ、雇用契約書・就業規則・賃金規程・給与明細等の書面の内容も見直し、さらには場合により、弁護士などの法律専門家に相談し、チェックしてもらうことが必要となるかもしれません。
参考ページ:労働法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/
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