2011-11-15 茶道教室運営会社破綻と権利外観法理

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1 今回の判例 茶道教室運営会社破綻と権利外観法理

H22.6.18 大阪地裁判決

Aさんら(個人)が、B社の経営する茶道教室である「茶道XYZ茶茶クラブ」(仮名。XYZは流派名と同じ)に通っていました。その後、B社が破産してしまいました。

そのため、受講者であったAさんらが、受講が不能となっため取得できる各種許状等の交付を受けることができなくなったことから、B社に対して損害賠償債権を有するとして、「XYZ」という流派の茶道の保存・普及等を目的とする財産法人であるCに対し、名板貸責任(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律8条等)に基づき、既払受講料等の支払いを求めました。また、Cは、「XYZ」という流派名を商標登録していました。

 

2 裁判所の判断

裁判所は、以下のように判断しました。

大阪地裁は、茶道教室が教室名として「茶道XYZ茶茶クラブ」という表示を用いている場合、当該茶道教室がXYZという流派の流儀作法に基づく茶道を教授する教室であることを意味するから、その表示中に「XYZ」というCが登録している商標名が含まれているからといって、当該教室を経営する事業主体が財団法人Cであることを誤認混同させるような外観が存在することを基礎付けるに足りない、等と判断し、Aさんらの請求を認めませんでした。

 

3 解説

(1)権利外観法理

本件でAさんらが主張したことは、非常に簡単にいえば、流派の家元の団体が、茶道教室を運営する別の会社に、その流派名を使用することを許しており、かつ許状等の付与に関与しているのだから、その茶道教室の運営会社が破綻した以上、その運営会社の債務について責任を持つべきだ、というものです。

 本件で請求の根拠となったもののひとつは、一般法人法8条でした。同条によれば、自己の名称の使用を他人に許諾した一般社団法人又は一般財団法人は、誤認して取引をした者に対し連帯して取引によって生じた債務の弁済責任を負う、と定められています。そのような法の定めの趣旨は以下にあります。

 ある法人Xが、自己の名称を第三者(Y)に貸した(使用を許した)場合に、外観上YがXと紛らわしい状態となることがあります。そして、Yの取引の相手方が、その外観から、YをXと誤認することがあります。このような場合に、外観を信頼した相手方を保護するために、Xに責任を負わせるというのが趣旨です。そして、このような法理を一般に「権利外観法理」ということがあります。

(2)商法・会社法に見られる権利外観法理

 一般法人法のほか、商法や会社法でも、権利外観法理に基づく責任が定められています。この点ビジネスを行うにあたって留意する必要があります。例を挙げれば以下のようなものがあります。

[a] 事業譲渡と商号の続用(会社法22条1項)

ある会社(A社)が、他社(B社)から事業を譲り受ける場合、譲受会社A社としては、譲渡会社Bの社名(商号)そのものが持つ信用も利用したい、と考え、譲受会社A社が、譲渡会社B社と同一又はこれに似た社名(商号)への変更して使う場合があるかもしれません。

しかし、会社法22条1項は、事業の譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う、と定めています。それで、注意しないと、譲受会社A社が、B社の債権者から予期せぬ請求を受けるおそれがあります。

[b] 名板貸責任(商法14条)

例えば、A社が、「A電器」という商号を使用して電器店を運営し、大きな信用を得ていたとします。そして「A電器」の社員B氏が独立して電器店を運営するにあたり、A社がB氏に対して「A電器」の商号そのものや、地域名+「A電器」という商号を使用してして営業を行うことを許したとします。

そして、例えばB氏が仕入先に多量の仕入債務を負ったまま倒産したといった場合、仕入先がB氏の店舗をA社の店舗と誤認するような状況があったとすれば、A社が、B氏の負っている買掛金債務を負う場合があります。このようなケースを名板貸(商法14条)といいます。

[c]  表見代表取締役(会社法354条)

例えば、A社が、何らかの理由で、法律上は代表権がない取締役B氏に、社長、副社長その他代表権を持つと誤解されるような肩書を与えたとします。

この場合、その取締役B氏が会社の社長等の肩書で行った行為(例えば契約など)については、A社が、代表権がないことを知らなかった取引先などの第三者に対しては、代表権があったものとして扱われ、A社が責任を負うことになります。これを表見代表取締役といいます。

(3)ビジネス上の留意点

以上のとおり、会社が他社の商号を使ったり、逆に他社に商号を使わせたりすることで、予期しない他社の債務を負ってしまうことがあります。また、ほかにも、第三者に誤解を与えるような肩書きを与えたり、何らかの権利があるかのような外観を作ってしまうことで、会社が思わぬ責任を負うことがあります。

事業上の何らかの事情で上のようなことを行わなければならない場合もないことはないのでしょう。しかしこの場合、法律の専門家に相談し、生じうる会社への責任の内容、責任が生じる可能性の程度や、できる限りその責任が生じる可能性を低下させる方法などを検討することは、自社の利益保護のために必要ではないかと思われます。



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