2006-05-17 商品形態の保護と不正競争防止法
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
事案の概要
平成18年2月24日東京地裁判決
これは,製薬会社E社が,後発医薬品(ジェネリック医薬品)製造販売業者を相手取って,「自社が販売するカプセル等の色彩構成と類似した薬剤を販売するのは不競法2条1項1号の不正競争行為にあたる」と主張し,後発医薬品の製造販売の差止を求めた訴訟です。
E社は,薬剤のカプセル,PTPシートの色彩構成が同社薬品の「商品等表示」になるとして不競法による救済を求めました。
E社は,後発医薬品の製造販売業者複数に同様の訴訟を起こしていました。
判決の概要
【結論】
請求棄却
【理由】
医療用医薬品も,不正競争防止法2条1項1号の商品に当たり,その形態が商品等表示に当たり得る。
E社の商品形態は,形態が極めて特殊で独特であり,その形態だけで商品等表示性を認めることができる場合には当たらない。
さらに,E社の商品が特徴のある形態を有し,その形態が長年継続的排他的に使用されたり,短期であっても強力に宣伝された結果,出所表示機能を獲得した場合にも当たらない。
PTPシートにつき類似した外観を有する医薬品が複数存在する状況下で,外観だけに頼って医療用医薬品の識別を行うことは,医薬品の取り違えの確率を高めるものであるから,医師等は,外観を医療用医薬品の識別の補助に使用することはあっても,最終確認としてPTPシートに記載された販売名等を確認し,識別を行っている。その結果,医師等が医療用医薬品を選択,識別するに当たり,配色を含む形態の果たす割合は相当低い。
商品の選択において医療用医薬品の外観が果たす役割は,さほど高いものではない。
以上の事実を総合すれば,E社商品の形態がE社商品と密接に結びつき,E社商品を見ればそれだけでE社の商品であると判断されるようになったものとまで認めることはできず,原告形態が原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されているということはできない。
解説
【商品デザインの保護と不正競争防止法】
自社の商品が第三者によって模倣されたり,第三者が自社商品と非常によく似た形態の商品を製造販売するといったケースが考えられます。この場合,自社商品が意匠登録されていればよいのですが,登録されていない場合,又は意匠登録ができないようなケースの場合,何ら保護されないというのは不合理です。
それで,不正競争防止法は,一定の場合に,他人の商品の形態と類似の商品の製造販売を規制しています。大きく分けると
1)「混同惹起行為規制(不正競争防止法2条1項1号)」
2)「商品形態模倣行為(同上2条3号)」
の2種類があります。
今回は,前者について取り上げます。
【商品デザインの保護と混同惹起規制行為】
不正競争防止法2条1項1号は,「他人の商品等表示として需要者の間で広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用し,他人の商品または営業と混同を生じさせる行為」を不正競争行為として禁止していますが,この規程から分かるように,単に他人の商品と似ている商品の製造販売が規制されるものではありません。
適用されうるのは,商品の形態が非常に特徴的で,需要者(この商品の取引に関わる人々)が,この特徴的な形態を一見しただけで「あの会社の商品だ」と分かる程度に知られている場合である必要があります。実際に,商品形態の保護が認められた例としては,ルービックキューブ,チョロキュー,iMacなどがあります。
今回のE社は「銀色と白色の2色からなるカプセル」「銀色地に青色の文字等のデザインを配したPTPシート」を「商品等表示」にあたると主張しましたが,裁判所は,このような単純な配色だけでは「商品等表示」とはいえないと判断しました。
具体的には,以下の要件を満たす必要があります。
(1)商品表示性 商品の形態が,商品の印として機能する必要があります
(2)周知性 商品の形態が需要者の間で広く認識されている必要があります。
(3)類似性 商品形態が、全体として類似する必要があります。
(4)混同のおそれ 需要者が両者の商品の間で混同を起こすおそれがあることが必要です。
【商品形態の決定と企業戦略】
以上のとおり,不正競争防止法による商品形態の保護には一定の要件が必要ですので,商品形態の保護のためには意匠登録することがベストです。もっとも,意匠登録にも,一定の要件がありますから必ずしも登録ができないようなケースもあるでしょう。
不正競争防止法による保護を受けるためには,まず,ある商品の形態が極めて特殊で独特な場合には,その形態だけで商品等表示性を認めることができる場合があります。
又は,形態が極めて特殊とまではいえなくても,商品が特徴のある形態を有し,その形態が長年継続的排他的に使用されたり,短期であっても強力に宣伝されたような場合には,その形態が出所表示機能(どこの商品であるかを表示する機能)を獲得し,「商品等表示」になっていると認めることができる場合があります。
したがって,商品形態が商品の差別化に重要な役割を果たすようなケースでは,デザイン段階で,又は販売における宣伝活動において上記要素を考慮に入れた戦略が必要となるでしょう。
また,以上の要素は,自社が扱っている商品のそもそもの性質と顧客層(需要者層)が誰か,ということにも依存していることにも注意すべきです。
医療用医薬品に関するものである今回のケースでは,裁判所は,需要者である医師が外観だけに頼って医療用医薬品の識別を行うことはなく,医師等が医療用医薬品を選択,識別するに当たり,形態の果たす割合は低いと判断しましたが,このように,商品の性質と顧客層が判断要素となったわけです。
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