2006-05-10 争議行為と使用者側の対抗手段

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事案の概要

平成18年04月18日 最高裁判所第三小法廷

これは,大阪の生コンクリート工場で,1987年末から続いているロックアウト(工場封鎖)を巡って,元労働組合員ら14人が「ロックアウトは違法」であるとして,未払い賃金の支払いなどを求めた訴訟です。

判決の概要

【結論】

 ロックアウトを正当と判断し,賃金請求を認めず。

【理由】

個々の具体的な労働争議の場において,労働者の争議行為により使用者側が著しく不利な圧力を受けることになるような場合には,衡平の原則に照らし,労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段として相当性を認められる限りにおいては,使用者の争議行為も正当なものとして是認されると解すべきであり,使用者のロックアウトが正当な争議行為として是認されるかどうかも,上記に述べたところに従い,個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度,経過,組合側の争議行為の態様,それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし,衡平の見地からみて労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうかによってこれを決すべきである。このような相当性を認めることができる場合には,使用者は,正当な争議行為をしたものとして,当該 ロックアウトの期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務を免れる。

本件争議行為のうちの時限ストライキは,・・・比較的短時間の時限ストライキであったにもかかわらず,会社は,その日の受注を全部返上するなどして,終日,事実上休業の状態にせざるを得なかった。このような状況においては,労働者らの提供した労務は,ストライキにより就労しなかった時間にかかる減額がされた後の賃金にも到底見合わないものであり,かえって上告人に賃金負担による損害を被らせるだけのものであった。

そして,会社は,本件争議行為が開始された後は,受注が減少して資金繰りが著しく悪化し,納入先の信用も損なわれたというのであるから,本件争議行為によって上告人が被った損害は,その規模等からみて甚大なものであった。

このような本件争議行為の態様及びこれによって上告人の被った打撃の程度に照らすと,上告人が本件争議行為により著しく不利な圧力を受けたことは明らかである。

労使間のこのような交渉態度(ここでは内容は省略します),経過からすると,本件争議行為に対し会社が本件ロックアウトをもって臨んだことも,やむを得ないところであった。

解説

【争議行為に対する使用者の対抗手段】

ロックアウトとは,ストライキ等の争議中の労働者を工場などから閉め出し,賃金を払わないことで争議に圧力をかける,使用者の対抗手段の一つです。一定の場合には,労働組合の争議行為に対して,使用者が対抗手段を取ることが許されます。

(対抗手段1-操業の継続)

 使用者(会社)が,労働組合の争議行為に対抗して,管理職,非組合員,他の組合員などの従業員を使用して操業を継続することは禁止されていません。また,争議行為終了後の争議行為参加者の職場復帰を妨げない限り,原則として,操業継続のため新たに別の労働者を採用することも許されます(ただし,職業安定法第20条,労働者派遣法第24条による制限はあります。)。

 ただし,労働組合と使用者間に,争議行為中,不必要な紛争を起こさないために,代替労働者の採用を禁止したり,操業継続のために使用できる者の範囲を制限したり,争議行為中の施設の保安に必要な要員を確保したりする協定が締結されることがあります。これを一般的に「スキャッブ禁止協定」といいます。この場合,使用者はこの協定に拘束され,これに反して操業を継続すれば,損害賠償責任や不当労働行為が成立する可能性があります。

(対抗手段2-ロックアウト)

 ロックアウトとは,労働組合の争議行為に対抗するため,使用者が,事務所,工場,店舗などの作業所を一時的に閉鎖(封鎖)したり,事業所の電源を切ったり,作業する機械の鍵を引き揚げたりすることによって,争議行為参加者からの労務の提供を拒否することをいいます。ロックアウトについては,法律上の明文の根拠はありませんが,最高裁判例(丸島水門製作所事件・最三小判昭50.4.25)は,正当なロックアウトは許されると判断しました。

 ロックアウトが正当であれば,使用者は,ロックアウトの期間,争議行為参加者に対し,賃金を支払う義務がありません。他方,ロックアウトが正当でないとされた場合には,使用者は賃金支払義務を負うほか,不当労働行為が成立する可能性があります。

【ロックアウトの正当性の判断】

 どんな場合にロックアウトが正当と判断されるでしょうか。最高裁判所は,「具体的諸事情に照らし,衡平の見地から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうか」によって判断されるとしました。そしてその具体的事情としては,

  • 個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度,経過 
  • 組合側の争議行為の態様 
  • それによって使用者側の受ける打撃の程度
  • などが挙げられています。

     そして,一般的に,ロックアウトが正当と判断されるためには,以下の条件が必要であると考えられています。

    (1)組合側による争議行為の存在ないし争議終了後も相当の圧力が存在すること
    (2)それによって、使用者が著しい打撃を受けること
    (3)労使間の勢力の均衡を回復するための対抗的防衛手段であること

     それで,労働者側がいまだ争議行為を行っていない段階で行う先制的ロックアウトや,使用者の要求を貫徹する手段としての攻撃的ロックアウトには,正当性がないと考えられています。

     他方,部分スト・指名スト・巡回スト・波状スト・サボタージュ(怠業)等は,労働者側に発生する損失の程度は比較的少ないのに対し,使用者側に生じる損失は大きいため,交渉の経緯態度等の他の要件との関連もありますが,対抗的防衛手段として使用者によるロックアウトが正当だと解される可能性は高くなります。

     例えば,部分ストが行われた場合,使用者としては,部分ストの範囲だけの作業所閉鎖が意味がなく,部分的に作業所を閉鎖したとしても,残りの労働者の就労が不能(無意味)であるような場合,ロックアウトが正当であるとされる可能性があります。今回の判例も,行われたストは時限ストでしたが,結局会社は1日休業せざるを得なくなり,会社に与えた打撃が甚大であるとされた事案でした。

    【労使紛争の早期解決と事前協定】

     以上のとおり,ストライキ等の争議行為が行われることになった場合,使用者側にも対抗手段はあります。しかし,紛争は早期に解決することが望ましいことはいうまでもありません。

     例えば,その一つの手段としては,事前に,労使間で争議行為のルールを労働協約等で定めておくことができます。以下のような内容を含めることができます。

    ・争議予告(予告期間,予告すべき内容,予告の形式)。

    ・保安協定(最低限の施設維持などに必要な保安要員を争議行為参加者から除外することを協定しておくこと)

    ・争議行為中の施設の利用(混乱防止のため,会社施設内への立ち入り制限や,施設利用の範囲を定めておく)

    ・争議行為中の団体交渉に関する定め

    ・スキャップ禁止協定



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