2015-04-22 登録モデル情報と営業秘密の保護
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 登録モデル情報と営業秘密の保護
東京地裁平成26年4月17日
モデルやタレントのマネジメントなどを行うA社は、1800名を超えるハーフや外国人の、また約200名の日本人の登録モデルについて、その氏名、連絡先、年齢、身長、容姿の特徴、写真等の登録モデル情報を、社内共有サーバー内のデータベースとして保有していました。
B氏は、A社を退職し、C社を設立しました。C社は、設立約5か月後にはA社の登録モデル56名と専属又は登録モデル契約を締結し、その約半年後には、A社の登録モデル84名と専属又は登録モデル契約を締結しました。
そこで、A社は、B氏とC社に対し、営業秘密を不正に使用したとして、損害賠償を求めて、訴訟を提起しました。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のとおり判断し、損害賠償を認めました。
● 登録モデル情報は、外部アクセスから保護された社内サーバー内のデータベースとして管理され、入力・アクセスも一定の従業員に限定されていた。印刷した場合でも、利用が終わり次第シュレッダーにかけている。
● 上のような取扱により、A社従業員に登録モデル情報が秘密であると容易に認識することができるようにしていた。
● よって、登録モデル情報はA社の秘密として管理されていたと認められる。
● C社のモデル契約の状況その他の事実を考えると、B氏及びC社は、A社の情報を使用してA社の登録モデルを勧誘しモデル契約を締結したものと認められ、B氏及びC社は、不正の利益を得る目的で、A社の情報を使用したものというほかはない。
3 解説
(1)営業秘密の3要件
今回問題となったのは、不正競争防止法2条1項7号で禁止の対象となっている「図利加害目的での営業秘密の不正使用」の規定でした。
確かに多くの企業にとって、顧客情報等の個人情報やノウハウといった営業秘密は、企業の資産のコアともいえ、こうした営業秘密の保護は重要な課題です。それで、不正競争防止法の活用を検討すべきケースは少なくないと思われます。
この点、不正競争防止法上保護される営業秘密となるためには、以下の3つの要件が必要とされています。
a) 秘密として管理されていること(秘密管理性)
b) 事業活動に有用な情報であること(有用性)
c) 公然と知られていないこと(非公知性)
そして判例上最も問題となるのは、aの秘密管理性の要件であり、原告側が敗訴する場合、秘密管理性がない、という理由が目立っています。そこでこの「秘密管理性」についてもう少しご説明します。
(2)秘密管理性の要件
営業秘密の3要件のうち、中核的要件ともいえる秘密管理性について、判例は、以下の2要件を挙げています。
ア) 「秘密」の表示性(客観的認識可能性)
(例) 「マル秘」「機密情報」「取り扱い注意」などの表示を行う
イ) アクセスの制限性
(例) 施錠した保管庫に入れてある情報
パスワードによるアクセス権の管理をしてあり、閲覧者の制限がされている
この点本件では、データベースへのアクセス制限、オートログアウト、紙媒体の廃棄ルール等によって秘密管理性を認めました。
他方、本誌で以前ご紹介した東京地裁平成18年7月25日判決は、以下の理由で秘密管理性を否定しました。
a 施錠は事務所の扉だけであるが、これは防犯目的だけであった
b 情報に「部外秘」などの表示が無かった
c PC上のパスワードは、簡易な上、スタッフは誰でも知っていた
d 紙媒体は誰でも閲覧可能
(3)ビジネス上の留意点
以上のとおり、判例上「秘密管理性」が認められるためには、法律上の要件を意識したそれなりの厳格な管理が必要であることを認識する必要があります。
確かにこうした管理は日常的に手間やコストがかかるものではありますが、いざ営業秘密が不正使用された場合のダメージは大きなものです。この点、弁護士と相談しつつ法律上の要件を満たしながらできるだけコストをかけない方法を探ってみるとよいかと思います。
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