2010-08-18 招福巻事件とブランド管理
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 招福巻事件とブランド管理
大阪高裁 平成22年1月22日判決
X社が、「招福巻」(本件商標)という商標権(本件商標権)を有していました。他方、全国でスーパーマーケットを展開するY社は、各店舗で節分用に販売した巻き寿司の包装に「十二単の招福巻」という標章(Y社標章)を付していました。
これに対し、X社は、このY社の行為がX社の商標権を侵害するとして、前記行為の差止を求め、かつ損害賠償を請求しました。
なお、Y社は、広告ビラに「穴子、海老など色とりどりの12種の具材を贅沢に使った恵方巻です。」という紹介文とともに、ゴシック体文字で「十二単の」の部分を小さく横書きし、かつ、「招福巻」の部分を大きく横書きしていました。
2 裁判所の判断
大阪高裁は、以下のように判断しました。
- 本件商標とY社標章とは類似する。
- しかし、Y社標章にある「招福巻」の部分は、商標法26条1項2号の「普通名称」に該当する。
- 本件商標の商標権の効力は、Y社標章には及ばない、つまり、Y社標章の使用は、本件商標権を侵害していない。
3 解説
(1)商標権が及ばない場合の例:「普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標」
商標法26条1項各号は、ある商標権の効力が及ばない(つまり商標権の侵害とはならない場合)を列挙していますが、その一つが、同項2号の、「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標」です。
普通名称を商品名などに使用しても、商標としての機能(自他商品識別機能、出所表示機能)が失われますし、そもそも普通名称につき特定人に独占的使用を許すことは社会経済上適切ではないからです。
(2)商標の普通名称化とその原因
商標として登録された名称であっても、その後普通名称となってしまうことがあります。つまり、登録時には、ある名称が、特定の企業が提供する商品を識別する標識としての機能(自他商品役務識別機能、出所表示機能)を有していたところ、徐々にその機能が弱まって消失し、取引者や消費者といった需要者の間で、その商品や役務を表す一般的名称として意識されるに至ることがあります。これは「商標の普通名称化」といわれています。
商標が普通名称化する原因にはいくつかありますが、その主なものを取り上げると次のとおりです。
商標権者がブランド管理を怠った場合
ある商標が広く知られ、周知・著名になった場合、これを無断で同種の商品に使用しようとする事業者が多く出現するようになります(いわゆる「ただ乗り」「フリーライド」です。)。このときに、商標権者が、適切な禁止措置をせずに放置する場合があります。その結果、多数の事業者がその商標を広範囲に使用するようになり、消費者などの需要者から見ればその商標を見ても特定の会社の提供する商品の名称であるという認識を持たないようになり(商標が自他商品識別力を失い)、普通名称化することがあります。
もともと自他商品識別力が弱い商標の場合
もともとの商標が、元来強い自他商品識別力を発揮持たないいわゆるウィークマークである場合、普通名称化しやすい傾向があります。このウィークマークの中には、その商品の、品質、原材料、効能、用途などを表示する語や、これらの略称を組み合わせることにより構成した商標があります。
(3)ビジネス上の留意点 ~ 不断のブランド管理の重要性
すでに述べたとおり、商標が普通名称化すると、商標としての機能は失われ、商品などに用いても、顧客吸引力を発揮しなくなりますし、第三者による無断使用を排除することができなくなります。その結果として、これまでの営業努力によって築きあげられたブランドとしての価値を失いますので、その商標権を保有していた企業にとっては、大きな財産的損失となります。
それで、商標権者は、自社商標の普通名称化を阻止するために不断の努力を払う必要があります。つまり、同業者等が自社商標を無断で使用していないか、また、市場において取引者等が自社の登録商標を商品の慣用的な名称として使用していないか、等を常に監視しなければなりません。そして、無断使用や不適切な慣用的名称としての使用が発見された場合には、適切な対処をする必要もあります。
具体的には、同業者の無断使用に対して適宜に警告を発したり場合によっては裁判上の差止請求をすることが考えられます。また、不適切な慣用的名称に対しても、使用を中止してもらう、表現を改めてもらう、この名称が自社の商標であることを明示してもらう、といったことを求めていきます。
自社商標の使用状況を監視する方法のうち、主なものを取り上げれば以下のとおりです。なお、個々の手段についての詳細な解説は、別の機会に譲りたいと思います。
- 新聞(業界紙含む)、雑誌、書籍、辞書(専門用語辞書を含む)のチェック
- インターネット上での使用状況のチェック
- 現実の営業活動における情報収集
- 他社の広告、チラシその他の宣伝媒体のチェック
- 自社商標と類似商標の出願・登録情報のチェック
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