2020-07-14 特許の共有者の製品と他方共有者の権利
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
今回の事例 特許の共有者の製品と他方共有者の権利
大阪地裁令和元年8月19日判決
A氏とB氏が、「養殖魚介類への栄養補給体及びその製造方法」という名称の発明に関する特許を共有していました。
裁判所の認定によれば、B氏は、当該特許発明の実施製品を製造してC社に販売し、C社は市場にこれを販売しました。
他方、A氏は、C社は特許発明の実施製品を製造したとして、C社の行為は当該共有特許権の侵害であると主張しました。
なお、事案は本稿に必要な範囲に絞っており、簡略化しています。
裁判所の判断
裁判所は以下のとおり判断し、A氏の請求を認めませんでした。
・ 証拠に照らせば、C社が特許発明の実施製品を製造したことはなく、特許権の共有者であるB氏が製造したものを購入したものである。
・ B氏は当該特許権の共有者であり、共有者であれば、共有者であるA氏の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。
・ B氏が製造した特許発明の実施品をC社に販売した場合、その特許権はその目的を達成したものとして消尽するから、共有特許権の共有者であるA氏は、C社に対して特許権侵害を主張することはできない。
解説
(1)特許権の共有の概要
特許権の共有とは、1個の特許権を2名以上で共同して保有することをいいます。
特に、技術の複雑化・高度化に伴って、一企業・一組織内のみならず、産学、産官、民
間どうしで技術の共同開発することが近年多くなってきており、その結果、開発成果であ
る特許権の共有が増えています。
特許権の共有は、共同研究や共同開発の結果としては自然な流れではありますが、正確な知識を踏まえ、契約締結時など早い段階から注意を払わないと、せっかく登録を受けた特許が活用できなくなるといった事態に陥るおそれがあります。以下、その扱いにおいて留意すべき点をご説明します。
(2)共有特許の自己実施とライセンス
まず、特許法では、原則として、特許の共有者であれば自由に共有特許発明を実施することができ、他の共有者に対して実施料などを支払う必要はありません(特許法73条2項)。
他方、共有者の一部が、共有特許を第三者にライセンスしたり、共有特許の持分を譲渡する場合には、他の共有者の同意が必要とされています(特許法73条1項、3項)。
それで例えば、自社が開発専業であり、製造能力がなく、開発成果のライセンスから収益を得ことを期待している場合があるとします。この場合、共同開発契約や共同出願契約などの書面の中で、特許発明のライセンスの可否やライセンス条件について、できるだけ具体的に定めておくことは重要になると思われます。
そうでないと、共有者間の関係が良ければよいのでしょうが、当事者間の関係が悪くなってしまったという場合に、いざライセンスしようというときに共有者の同意が得られず、譲渡もできず、登録を受けた特許権の共有持分が絵に描いた餅になってしまうかもしれません。
(3)大学や研究機関と不実施補償料
共有特許に関連して問題となることがあるのは、大学や研究機関と企業との間の共有特許の実施について、大学や研究機関といった直接に発明を実施できない組織が、共有者たる企業に対して、共有特許を実施する場合に「不実施補償料」の支払いを求めた場合の扱いです。
この点で、企業の中には、特許の共有者であれば自由に共有特許発明を実施することができるという特許法の規定を根拠に、不実施補償料の支払に難色を示す企業も少なくないようです(不実施補償料の法的根拠の有無や内容については種々の議論があります)。
そのため、前述と同様、この場合も、できる限り、共同研究契約や共同出願契約の際に、不実施補償についての取り決めを定めておくことが望ましいといえます。
弊所ウェブサイト紹介~特許法 ポイント解説
弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。
例えば本稿のテーマに関連した特許法については、
https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/tokkyo/index/
にあるとおり、特許の出願からライセンス、紛争解決の方法まで、特許法に関する解説が掲載されています。必要に応じてぜひご活用ください。
なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。
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