2018-05-15 事業譲渡と会社法上の競業避止義務

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今回の事例 事業譲渡と会社法上の競業避止義務

 知財高裁平成29年6月15日判決

 A社は、B社から、ウェブサイトを利用した婦人用 中古衣類の売買を目的とする事業を譲り受けました。

 ところがB社は、A社に譲渡した事業と同一の事業を行いました。それで、A社は、B社に対し、不正の競争の目的をもってA社に譲渡した事業と同一の事業を行いA社に損害を与えたとして、会社法21条3項に基づき、当該事業の差止と、損害賠償を求めました。

裁判所の判断

 裁判所は以下のように判断し、A社の請求を認めました。

● 会社法21条3項にいう「不正の競争の目的」とは、譲渡会社が譲受人の事実上の顧客を奪おうとするなど、事業譲渡の趣旨に反する目的で同一の事業をするような場合を指す。

● B社は、同事業への関心が薄いという理由を表示して売却募集をしておきながら、譲渡契約締結後に同一の事業のためのドメイン名を取得し、宣伝をした。

● 譲渡契約では、引継ぎを理由として営業禁止期間を設けられていたところ、B社は、A社が譲渡対象のサイトの運営ができない間に、従来の顧客に、新たなサイトを開設した旨のメールを多数送付し、新サイトが従来のサイトの姉妹サイトであるかのような誤認を生じさせた。

● 以上から、B社は、A社に事業を譲渡したにもかかわらず、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ったものであり、A社は、B社に対し、会社法21条3項に基づき、競合行為の差止めを求めることができる。

解説

(1)事業譲渡と会社法上の競業避止義務

 事業譲渡はM&Aの一つの方法としてよく用いられる手法です。そして、事業譲渡に関して、会社法は、譲渡をした会社が競業することを禁止する、以下の規定を置いています。

第21条 事業を譲渡した会社(・・・「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(東京都の特別区の存する区域及び地方自治法・・・の指定都市にあっては、区・・・)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならない。

2 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から30年の期間内に限り、その効力を有する。

3 前2項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。

 つまり、事業を譲渡した会社が会社法上負う競業避止義務の範囲は以下のとおりです。
  場所的範囲:同一の市区町村とその隣接市区町村の区域内
  期間   :譲渡の日から20年間(ただし、特約で最長30年)
  事業の範囲:同一の事業

 他方、譲渡会社が「不正の競争の目的をもって同一の事業を行う」ことについては、前記のような制約はなく、譲受人は離れた市区町村で競業を行う譲渡会社にも責任を追求できることとなります。

(2)ビジネス上の留意点

 もっとも、会社法21条は、小企業であってもインターネットで広い範囲(場合によっては世界中)で事業が行えるようになったという時代に照らすと、時代に合っておらず、使いにくい規定であることは事実です。

 それで、実務上、事業譲渡契約においては、会社法21条の規定に頼るのではなく、売主に対する一定期間・一定範囲の競業避止義務条項を盛り込むことが広く見られます。

 この場合には、会社法の「同一・隣接市区町村」という範囲に限定されず、現実の事業の範囲(日本全国も含め)を踏まえた場所の設定も可能です。また、競業避止義務の期間も現実的な範囲で定めることができますし、競業を禁止する事業の範囲も、会社法に定める「同一の事業」よりも、もう少し広い範囲で競業避止義務を課すことも可能です。

 M&Aによって事業を大きく発展させる機会が開かれる一方、落とし穴もいろいろありますから、事業譲渡契約その他M&Aの契約においては、経験の豊富な専門家の助けも借りて、細心の注意を払って準備・交渉が必要である点、留意が必要と思います。

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