2017-02-14 「京都赤帽」と「赤帽」商標との類否
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
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1 今回の事例 「京都赤帽」と「赤帽」商標との類否
東京地裁平成29年1月29日判決
A組合は、赤系の色の字でなる「赤帽」という漢字で構成される商標権を有しています。
他方、B社は、直立して両手で荷物を捧げ持つ舞妓姿の女性像、五重塔の図形と、「株式会社京都赤帽」の文字から成る標章を使用していました。
そのため、A組合はB社に対し、商標権侵害を主張し、損害賠償の請求などをしました。
なお、具体的なそれぞれの商標・標章の画像は、以下のとおりです。
2 裁判所の判断
裁判所は以下のように判断し、A社の請求を認めませんでした。
● 「赤帽」の語は、駅で乗降客の手荷物を運ぶ者その他運搬人(ポーター)を指す普通名詞であるので、「運搬人」といった観念を生じる。
● B社標章のうち「京都赤帽」との文字部分についても、A組合商標とは、「京都」の有無、文字数(2字か4字か)、音数(4音か7音か)が異なっており、外観、称呼及び観念共に明確に区別し得る。
● A組合は、B社標章のうち「赤帽」以外の部分が識別力を有しないこと、A組合商標が周知であることを理由に、「赤帽」の部分がB社標章の要部であるから、A組合商標に類似する旨主張する。しかしB社標章の構成において「赤帽」の文字は「京都赤帽」という一連表記された文字列の一部にとどまる一方、舞妓の図形が注意を引くことに照らすと、B社標章のうち「赤帽」の部分のみが識別力を有するとは認められない。
● 「赤帽」の表示がA組合の提供するサービスを示すものとして需要者に広く認識されていると認めるに足りない。
3 解説
(1)自社の商標の一部に他社の登録商標が含まれている場合
自社が使い始めた標章の一部に他社の登録商標が含まれていることに気づく、ということがあるかもしれません。このような場合、その商標の侵害となってしまうのでしょうか。
この点、今回のB社標章のように、複数の文字列や図形を組み合せたものを結合商標(標章)といいますが、こうした結合商標については、その標章の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断するということは、基本的にはしません。むしろ、結合商標全体と、他者の商標を比較することになります。
ただし、結合商標のある部分が取引者、需要者に対し、出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分がある場合、当該部分を「要部」として、他から分離して比較することがあります。例えば、「スマイル・ドコモ」という標章であれば、「ドコモ」の部分が「ドコモ」という他社の商標と比較される可能性は高いといえます。
また、他の部分から出所識別標識としての称呼や観念が生じないと認められる場合もそうであり、例えば、衣服の商標として「ABCウェア」とあれば、通常は「ウェア」の部分は出所識別機能を有さないため、出所識別機能を有する「ABC」の部分が要部になります。
(2)裁判例における実例
他方、以下の判決例は、要部を分離すべきと原告が主張したものの、裁判所がこれを認めず全体観察して判断した例です。
● 登録商標「プレミアム/PREMIUM」
被告標章「Premium by LAST SCENE」
(大阪地裁平成21年7月16日判決)。
ここで裁判所は、取引の実情を考慮し「プレミアム\PREMIUM」が、「高品質の、高級な、高価な」を意味する言葉であるとの認識が一般的に普及するようになり、既に、商品や役務の出所を示すものとして強い印象を与える言葉ではなくなっていたこと、被告標章については、「LAST SCENE」の部分も「Premium」の部分に劣らず需要者の目を引くこと、ファッション業界においては、ブランド名として「by」の後ろに既存ブランド名を掲げた名称が使用されることがあり、このような場合顧客誘因力を有する既存ブランド名が、出所識別機能を有していること、等から、被告標章(「Premium by LAST SCENE」)のうち「Premium」の部分だけを抽出し、この部分だけを本件商標と比較して類否を判断することはできない、と判断しました。
●登録商標「ラドン健康パレス 湯~とぴあ」
被告標章「湯~トピアかんなみ」
(知財高裁平成27年11月5日判決)。
原告商標(左)と被告標章(右)の具体的な画像は、以下をご覧ください。
ここでは「ゆうとぴあ」との語が、全国的に、入浴施設というサービスに広く使用されているから識別力が弱く、この部分だけを抽出した被告標章との比較はできず、「ラドン健康パレス」と「湯~とぴあ」は不可分一体として理解されるとし、商標権の侵害を否定しました。
(3)ビジネス上の留意点
以上のとおり、自社が使い始めた商標の一部に他社の登録商標が含まれているからといってただちに侵害とはいえません。
しかしながら、例えば、他社の登録商標が「ABC」であるのに対し、自社の標章がこれに対して「東京ABC」といった「地名+他社商標」という組合せである場合や、「ホットABC」といった「提供するサービスの品質+他社商標」という組合せである場合には、侵害のリスクが高まることは事実です。
それで、例えば舞妓や五重の塔の図形と組合せた今回のケースのように、はっきり目に入る大きさの印象的な図形と組み合わせることや、「ABC」と組み合わせる文字列も、地名といった比較的識別力の低い言葉ではなく、造語を組み合わせる、また、全体的に特徴のあるフォントを使用する、といった方法を取ることが考えられます。
また、「ABC」に相当する他社の商標について、周知の商標(取引先や顧客の間で広く知られているもの)を使うことは、いずれにせよ避けることが望ましいといえます。
また、ある標章を使い始める前に、他社商標を調査し、極力他社商標を含まない標章を選択することが最善ではあります。他社から指摘されて裁判を争った上で勝つよりも、また慌ててコストを掛けて変更するよりも、ずっとコストも手間も少ないからです。
それで、ある商品やサービスをネーミングする場合、最初から1個に絞ったり一つの言葉にこだわるよりも、複数の商標の候補を挙げた上で、弁理士などに商標調査を依頼し、調査結果を踏まえて商標を選定することがベストといえるかと思います。
4 弊所ウェブサイト紹介~商標法 ポイント解説
弊所のウェブサイトの法律情報の解説のページには、ビジネス・企業に関係した法律情報に関する豊富な情報があります。
例えば本稿のテーマに関連した商標法については
https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/shouhyou/index/
において解説しています。必要に応じてぜひご活用ください。
なお、同サイトは今後も随時加筆していく予定ですので、同サイトにおいて解説に加えることを希望される項目がありましたら、メールでご一報くだされば幸いです。
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