2016-09-20 契約における発注者の協力義務
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
前書き
本稿を執筆しております弁護士の石下(いしおろし)です。いつもご愛読ありがとうございます。
取引にあたって契約書の作成を弁護士に依頼する方(企業)もいれば、弁護士に依頼する必要はなく、自社で作成・チェックすれば足りる、と考えている方々も少なくありません。
確かに後者の考えも一理あります。取引の内容は分かっているのだから、インターネットからそれらしい「ひな形」を見つけてそのまま使えば十分だろう、と考えることはできます。そしてそれでも多くの場合深刻な問題に陥ることはありません。世の中の取引のほとんどは大きなトラブルがなく円満に完了するからでです。
他方、事前に専門家にコストをかけ契約書を整えたりチェックしたりすることを行う企業もあります。ではなぜ一見自分でできることにコストを掛けるのでしょうか。
長くなりましたので、この続きは次の機会に申し上げたいと思います。
なお、本稿の末尾には、弊所取扱案件として英文契約実務(海外商取引編)についてご紹介しています。ご関心があればこちらもご覧ください。
では、本文にまいります。
1 今回の事例 契約における発注者の協力義務
京都地裁平成28年5月27日判決
※ 事案の性質上、説明が長くなります。ご容赦ください。
A市は、ゴミ焼却施設の焼却灰の減量化を図るプラント建設を決定し、入札の結果、B社との間で、当該プラントの建設請負契約を締結しました。代金総額は112億円余、納期は平成22年5月31日となりました。
ところがB社が建設したプラントに度々不具合が発生し、改善が進まなかったため、平成24年7月31日、最終的な引渡期限が平成25年8月末日とされました。
B社は、その後改造工事を行い、平成25年4月10日から行われた第1次試運転について、A市の性能評価会議は合格と判断しました。またその後の第2次試運転において生じた不具合については、B社は対策工事を実施しました。そしてシミュレーションによれば同対策に効果があると判断されたため、B社は実証実験の要領書をA市に提出しました。また、性能評価会議ではB社提案に専門的理解も示されました。
しかしA市は、度重なる不具合と工期の長期化によるB社提案の信憑性への疑問から、8月末までの工事の完了が不可能であると考え、請負契約を解除する方針を決定し、8月1日、B社に対して請負契約の解除を通告しました。
それで、A市はB社に対し、プラントの解体・撤去を求める訴訟を起こしました。
2 裁判所の判断
裁判所は以下のように判断しました。
● A市は、第2次試運転の不具合から、平成25年8月末日までに第2次試運転を完了して完成検査に合格することはできなかったと主張する。
● しかし平成25年7月1日の時点で、B社は対策工事の大部分を行っており、この対策工事を完了させれば、一定の効果のある結果が得られる蓋然性が高かった。
● そのため、B社に履行遅滞が生じているか、将来履行遅滞が生じるとはいえない。
● しかも、大規模で多額の費用を要する本件契約を考慮するとき、A市は、請負契約に付随する義務として、性能評価会議における専門的意見を尊重しつつ、B社が試運転を再開することができるよう、協力すべき信義則(民法1条2項)上の義務がある。
● にもかかわらず、B社の対策提案を顧みることなくA市が解除方針を決定したことは、請負契約に付随する前記信義則上の義務に違反しており、受領遅滞(民法413条)が成立するから、A市の解除の主張は認められない。
3 解説
(1)発注者側の契約上の義務としての受領義務
契約や取引においては双方の信義ある行動が重要であるというのはビジネス上もいえることですが、法律上も当てはまります。実際民法は、第1条という最初の条文で「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」と謳っています(1条2項)。
そしてこの点は、取引における発注者の立場においても当てはまります。例えば自動車を購入した人が、後になって気が変わったため、納車した自動車についてあれこれと難癖をつけて受け取ろうといないというケースがあるとします。
この場合、債権者(顧客)は、自動車の納車が期限までになされなかったことを理由に売買契約を解除することはできません。それは、顧客は、自動車の引渡義務というディーラーの義務の履行に協力し、自動車を受け取る義務を怠っているからです。
ですから、発注者側でも、「金を払う立場だから何を言っても構わない」という対応は、道義上はもちろん法的にも許されないわけです。
(2)発注者の義務と下請法
特に発注者と取引先との関係が特に問題となるのは、両者の力関係に差があるような下請取引のケースです。
そのため、民法の一般的な規定に加え、下請事業者の利益を保護し、取引の適正化を推進するために、特に「下請代金支払遅延等防止法」が定められ、公正取引委員会や中小企業庁がこれを運用しています。
下請法で定められている親事業者に対する禁止行為には、主として以下のようなものがあります(一部の抜粋です)。
(a)受領拒否の禁止
下請事業者に責任がないにもかかわらず、給付の受領を拒むこと。
(b)下請代金の支払遅延の禁止
支払代金を、支払期日までに支払わないこと。
(c)下請代金の減額の禁止
下請事業者に責任がないにもかかわらず、下請代金の額を減ずること。
(d)返品の禁止
下請事業者に責任がないにもかかわらず、給付を受領した後、下請
事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
(e)不当なやり直し等の禁止
下請事業者に責任がないにもかかわらず、給付の内容を変更させた
り、給付をやり直させること。
親事業者の立場としては、上のような行為が、自社の都合、前例や慣行に基づき何気なく行われているということがあるかもしれません。
しかし、下請法に違反する行為については、単に契約違反となるにとどまらず、公正取引員会の勧告や立入検査を受けるほか、勧告や排除措置命令を受けることがあります。そして、勧告や排除措置命令を受けると、公正取引委員会のウェブサイトなどで広く公開され、企業のレピュテーションや信用へのダメージといった不利益を受けることがあります。
それで、自社の取引を見直し、問題があれば早急な改善が望ましいといえます。
4 弊所取扱案件紹介~英文契約実務(商取引編)
近年では多くの企業が海外取引に積極的に取り組んでいます。海外取引・国際取引では英文契約はまさに自社を守る必須のツールといえます。
また国内ビジネスであっても、海外企業の代理店になるとか、海外企業と取引する場合には英文契約の締結が必要となる場合が少なくありません。
そして弊所では、英文契約業務に積極的に取り扱い、多くの企業の国際化を支援しています。
これまで弊所が作成・レビューとして取り扱ってきた英文契約は多種多様ですが、今回は特に商取引関係のものをピックアップすると、以下のようなものがあります。
弊所では海外取引・国際契約をご検討の方のご相談を歓迎します。詳細は以下のURLをご覧ください。
・販売店契約書
(Distributorship Agreement、Reseller Agreement)
・代理店契約書(Representing Agreement)
・売買契約書(Purchase and Sales Agreement)
・フランチャイズ契約書(Franchise Agreement)
・業務提携契約書
(Alliance Agreement、Affiliation Agreement)
・購買契約書(Purchasing Agreement)
・取引条件に関する合意書
(Agreement of Trading Terms)
・業務委託契約書・役務提供契約書(Services Agreement)
・エージェンシー契約書(Agency Agreement)
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