2016-08-24 「桜桃苺」商標と商標登録異議申立制度
ここでは、弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」のバックナンバーを掲載しています。同メルマガでは、比較的最近の判例の紹介を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供します。 学術的・難解な判例の評論は極力避け、分かりやすさと実践性に主眼を置いています。経営者、企業の法務担当者、知財担当者、管理部署の社員が知っておくべき知的財産とビジネスに必要な法律知識を少しずつ吸収することができます。メルマガの購読(購読料無料)は、以下のフォームから行えます。
なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
前書き
本稿を執筆しております弁護士の石下(いしおろし)です。いつもご愛読ありがとうございます。
弁護士が行う交渉について多くの方が誤解している点があります。「交渉」というと、「自分の主張を押し通す」とか「巧みな話で相手を言いくるめてしまう」というものであると考えるかもしれません。
でも実は、紛争時の交渉も、ビジネスの交渉も本質的に変わることはないのです。例えばビジネスの交渉は、「値下げは求めない代わりにオプションを付けてもらう」とか「納期を特急に設定するかわり料金を上乗せする」というふうに、「トレードオフ」です。一方のみが有利になる立場を他方が呑む、ということは、何らかの圧倒的な力関係の差がない限り、普通はありません。
ところが、紛争時に弁護士に交渉を依頼するときになると、これまでの経緯から感情やメンツも入り混じり、交渉に「勝ち負け」を持ち込んだり、「自分に100%有利」な解決を求めたりする方がおられます。しかし法的紛争であっても交渉である以上「合意」しなければ解決せず、「勝った」「負けた」という視点とは全く別の観点から考える必要があるのです。
では、法的紛争における交渉においてどのような視点が重要なのでしょうか。この点の続きは次の機会にまた述べようと思います。
なお、本稿の末尾には、弊所取扱案件として英文契約実務(知的財産契約編)についてご紹介しています。ご関心があればこちらもご覧ください。
では、本文にまいります。
1 今回の事例 「桜桃苺」商標と商標登録異議申立制度
知財高裁平成28年6月23日判決
個人であるA氏らは、「桜」「桃苺」との文字と図形を含む商標について、指定商品を「いちご」として商標登録を出願し、平成25年12月6日に登録を受けました。具体的には、上下二段でなる商標であり、上段に「桜」と図形が、下段に「桃苺」が配される商標です。実際の商標は、以下の画像をご覧ください。
他方、徳島市農業協同組合は、「ももいちご」との名称のいちごを販売していましたが、商標としての登録を受けていませんでした。そして、同組合の組合員であるB氏は、平成26年1月21日、上記商標について、他人の周知な商標と類似する商標であるとして、登録異議の申立をしました。
特許庁は上記申立てを審理し、商標登録を取り消す旨の決定をしましたが、A氏は、特許庁の決定の取消を求める訴訟を提起しました。
2 知財高裁の判断
知財高裁は以下のように判断し、特許庁の判断を維持しました。
● 「ももいちご」の名称のいちごが、本件商標の出願時点において、販売開始から約15年が経過し、毎年の出荷量も数十トン程度とほぼ安定している。
● この間、関西地域において多数なされたテレビ・ラジオCM等の宣伝広告や、テレビ番組、雑誌、新聞、インターネット上の情報記事等では、常に引用商標1(ももいちご)が使用されてきた。
● これらを総合すると、「ももいちご」がいちごに使用された場合、申立人が生産、販売するいちごの表示として、周知となっていたものと認められる。
● 本件商標の上段の「桜」と下段の「桃苺」とが分離して観察されやすいことや、平仮名の「ももいちご」の周知性に照らせば、下段の「桃苺」に特に注目することは自然にあり得え、「桃苺」の漢字部分が当該商標の要部と考えられる。
● 以上から、本件商標(桜桃苺)が「いちご」に使用された場合、「ももいちご」と類似する商標となる。
3 解説
(1)商標登録異議申立の制度
本件は、商標権の登録異議申立にかかる決定取消訴訟です。本稿では、この商標登録異議申立の制度についてご説明したいと思います。
さて、商標の登録はどんな場合もできるものではなく、商標の出願については特許庁の審査官が審査し、法所定の要件を備えたと判断される場合に、登録を受けます。
しかしながら、審査官の法的判断に常に誤りがないとはいえませんし、審査官も世の中にあるすべての証拠を見て判断しているわけではない以上、判断の前提事実の見過しや誤認があることもあります。
そこで、商標法では、登録済の商標であっても、「商標法に反して登録された」と考える人に、異議を唱える手段をいくつか設けており、その一つが商標登録異議の申立です。なお、その他の制度としては、商標登録無効審判の申立があります。
(2)商標登録異議申立制度の概要
商標登録異議申立については、まず期間の制限がある点に留意する必要があります。具体的には、公報の発行から2か月以内です。それで、問題と思う商標商標を発見した場合、迅速に専門家へ相談することが望まれます。申立期限の数日前に慌てて相談しても、手続が間に合わない場合もあるからです。
他方、商標登録異議申立は誰でも可能です。この点は、当事者に利害関係が必要と解されている無効審判とは異なります。それで、当該商標権者が自社の取引先や提携先である場合や、あるいは今はもめたくない競業先である場合でも、自社の名前を出さず、知り合いに申立人になってもらって異議申立をする、ということが実務上珍しくありません。
異議申立については、「登録維持決定」か「取消決定」のいずれかの判断がなされます。そして、取消決定に対しては、商標出願人は知財高裁に対し、当該取消決定を取り消す判決を求め提訴することができます。
他方、「登録維持決定」に対しては上のような提訴はできないことに留意する必要があります。この場合、当該商標の登録についてさらに争っていくためには、商標登録無効審判の請求を検討する必要があります。
以上のように、登録異議申立についても一長一短がありますが、この手続を利用して、比較的早い段階で登録を取り消すことができれば、自社のビジネスへの悪影響をできるだけ小さいものにとどめることができる場合があります。それで、今回の「商標登録異議申立」という制度につき、何かのときのためにアウトラインだけでも頭に入れておくことは損にはならないと思います。
4 弊所取扱案件紹介~英文契約実務(知的財産ライセンス編)
近年では多くの企業が海外取引に積極的に取り組んでいます。海外取引・国際取引では英文契約はまさに自社を守る必須のツールといえますが、弊所では、英文契約業務に積極的に取り扱い、多くの企業の国際化を支援しています。
これまで弊所が作成・レビューとして取り扱ってきた英文契約は多種多様ですが、今回は特に知的財ライセンス関係のものをピックアップすると、以下のようなものがあります。
弊所では海外取引・国際契約をご検討の方のご相談を歓迎します。詳細は以下のURLをご覧ください。
https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/keiyaku/eibun_keiyaku/
・ 特許実施許諾契約書(Patent License Agreement)
・ 著作権利用許諾契約書(Copyright License Agreement)
・ 商標使用許諾契約書(Trademark License Agreement)
・ ノウハウ実施許諾契約書(Know-How License Agreement)
・ 原盤権使用契約書(Master Recording License agreement)
・ 必須特許共同ライセンス契約書(Joint License for
Essential Patents Agreement)
・ 特許プール契約書(Patent Pool Agreement)
・ 特許プールメンバー間フレームワーク契約書
(Patent Pool Framework Agreement)
・ 特許プール用標準ライセンス契約書
(Standard License Agreement)
・ キャラクター使用許諾契約書
(Character and Artwork License Agreement)
・ 出版契約書(Publishing Agreement)
・ 共同開発契約書(Joint Development Agreement)
・ 技術支援契約書(Technical Assistance Agreement)
メルマガ購読申込はこちらから
弊所発行のメールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」は、以下のフォームから行えます。
なお、入力されたメールアドレスについては厳格に管理し、メルマガ配信以外の目的では使用しません。安心して購読申込ください。
法律相談等のご案内
弊所へのご相談・弊所の事務所情報等については以下をご覧ください。