2015-06-23 発注後の減額と下請法
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 発注後の減額と下請法
今回は裁判例ではなく、公正取引委員会の勧告例を取り上げます。
平成27年4月10日 公正取引委員会勧告
A社は、百貨店等に販売する又は自社の店舗で販売する婦人靴の製造を、個人又は資本金の額が3億円以下の法人たる事業者に委託しています。
A社は、平成24年11月から平成26年1月までの間、「支払割引」として、下請代金の額から下請代金の額に一定率を乗じて得た額を差し引いていました。減額した金額の総額は、下請業者21名に対して6514万2852円でした。
2 公正取引委員会の判断
公正取引委員会は、以下を主な要旨とする勧告を出しました。
◆ 自社の行為が下請法4条1項3号の規定に違反するものであり、今後、下請事業者の帰責事由がないのに下請代金の額を減じないことについて取締役会の決議によって確認すること。
◆ 自社の発注担当者に対する下請法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講じること。
◆ 自社の役員、従業員、取引先下請事業者に、減額した金額を下請事業者に支払ったこと、これが下請法に違反するものであること等を周知、告知すること 。
3 解説
(1)下請法の概要
下請取引では、一般に親事業者が優越的地位にあることから、ときとして親事業者の都合で下請事業者が一方的なしわ寄せを受けることがあります。それで、独占禁止法の特別法である「下請法」(正式には「下請代金支払遅延等防止法」)が制定され、運用されています。
本稿では、この下請法のアウトラインについてご説明します。まず、下請法の対象となる取引は、「事業者の資本金規模」と「取引の内容」で定義されます。具体的には以下のとおりです。
(a)物品の製造・修理委託等
以下のいずれかのもの
資本金3億円超の親事業者
→ 資本金3億円以下の下請事業者
資本金1000万円~3億円以下の親事業者
→ 資本金1000万円以下の下請事業者
(b)情報成果物作成・役務提供委託(*)
以下のいずれかのもの
資本金5000万円超の親事業者
→ 資本金5000万円以下の下請事業者
資本金1000万円~5000万円以下親事業者
→ 資本金1000万円以下の下請事業者
(*) 以下のものは(a)が適用されます。
プログラムの作成委託
運送、物品の倉庫における保管、情報処理業務の委託
(2)下請法に定める禁止行為・義務など
下請法が適用される契約においては、いわゆる「大きな会社」(親事業者)が様々な義務を負うとともに、優越的な立場を利用した様々な行為が禁止されます。その中の数点をご紹介したいと思います。
(a)書面の交付義務
いわゆる「3条書面」という、下請法3条に定める事項をすべて記載した書面を下請事業者に交付する義務があります。
実務上、下請取引においては業務委託契約書を交わす場合、取引基本契約書に注文書を組み合わせる場合が多いと思われますが、契約書が作成されず注文書のみで取引が行われることもあります。
いずれにせよ、これらの契約書や注文書に、下請法3条記載の事項が抜けていると、下請法違反に問われるおそれがありますので十分に留意が必要です。
この点は、公正取引委員会が定める「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則」に照らして自社使用の書面を一度チェックする必要があるかもしれません。
参照 http://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/article3.html
(b)支払期日を定める義務
代金の支払時期に関しても規制があり、納品日から60日以内のできるだけ短期間内でなければならないと定められています。
ここでのポイントは、「納品日から」(検収日からではない)ということにあります。この点、基本取引契約では支払日が検収日を起算に定めることが少なくありませんが、下請法が適用される取引では、下請法に違反するような結果になることがないように見直しが必要かもしれません。
(c)その他の禁止行為
以上のほか、親事業者には種々の行為が禁止されています。例えば、本件で問題となった、一度合意した後に理由なく代金を減額すること、下請業者からの納品を拒むこと、下請業者に対して自社の商品やサービスを利用するよう強制することなどです。
(3)実務上の留意点
下請法違反の契約や取引は現在もないとはいえませんが、そのうち少なからぬ場合においては、組織的に故意に違反を行っているというよりも、取引現場において、担当者がコンプライアンスなどを意識することなく、これまでの取引慣習として行われていることも多いと思われます。
それで、これまで特に問題にならなかったからという理由で現在の取引契約をそのまま使うのではなく、一度下請法に対するコンプライアンスの見地から、自社の取引条件や慣行を再検討してみるとよいかもしれません。
また、下請事業者の立場からは、発注者から出される取引条件について違法であると指摘するのはやりにくいものです。例えばこの点、「弁護士に相談したら下請法に違反する疑いが濃いと言われてしまった。弊社は御社を信頼しているので、このままの条件で全然異存ないのですが、弊社以外の別の下請先が問題視することはないでしょうか」といった言い方で問題を指摘してみる手もあるかもしれません。
いずれにせよ、下請法違反については公正取引員会の勧告や立入検査を受けるほか、公正取引委員会のウェブサイトなどで広く公開され、企業のレピュテーションや信用へのダメージを受けることなども考えなくてはなりません。それで、違反行為の早期の防止と発見、速やかな改善は重要なことといえます。
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