2015-02-12 暗記学習用教材と特許発明該当性
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 暗記学習用教材と特許発明該当性
知財高裁平成27年1月22日
A氏は、発明の名称を「暗記学習用教材、及びその製造方法」とする特許を出願しましたが、拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判においてもその判断が変わることはありませんでした。それで、知財高裁に審決取消訴訟を提起しました。
なお、A氏の特許発明の概要は、ある原文を対象として作成され、第1の伏字部分が設けられた第1の虫食い文字列と、第1の伏字部分が設けられた箇所に対応する箇所とは異なる箇所に第2の伏字部分が設けられた第2の虫食い文字列であり、原文文字列は著作物である、というものです(ただしこの説明は完全に正確とはいえません。あくまでアウトラインです)。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下のとおり判断し、A氏の請求を棄却しました。
● 請求項に記載された特許を受けようとする発明に何らかの技術的手段が提示されているとしても、全体として考察した結果、その発明の本質が、人の精神活動、抽象的な概念や人為的な取り決めそれ自体に向けられている場合には、「発明」に該当するとはいえない。
● 本願発明は、暗記学習用虫食い文字列の表示形態及び学習対象の文字列自体を課題解決の技術的手段の構成とし、これにより、文字列全体の文脈に注意を向けた暗記学習を効率よく行えるという効果を奏するとするから、その技術的意義は、暗記学習の方法そのものにある。
● そうすると、本願発明の本質は、専ら人の精神活動そのものに向けられたものであると認められ、全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作、すなわち発明には該当しない。
3 解説
(1)特許が付与されるための要件
ある「発明」が、特許として登録されるためには、以下のような要件を満たしている必要があります(ただし、そのほかに手続上の要件もあります)。
(a) 特許法上の「発明」であること
(b) 産業上の利用性を有すること
(c) 新規性を有すること
(d) 進歩性を有すること
(e) 先願の発明であること
(f) 出願後に公開された先願の明細書に記載された発明でない
こと
(g) 公序良俗または公衆の衛生を害するおそれがないこと
(2)特許法上の「発明」とは何か
そして、今回のケースで問題となったのは、前記(a)の、特許法上の「発明」に該当するか否かでした。というのは、特許法でいう「発明」は、単に「良いアイディア」であるにとどまらず、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されているからです(特許法2条第1項)。
そしてこの「自然法則」とは、自然界で一定の原因から一定の結果がをもたらされるという、自然科学の法則を意味するとされます。それで、経済法則といった自然法則以外の法則を利用したもの、何かの計算方法といった人為的な取り決めは、特許法上の発明とは認められません。また、今回問題となったような、もっぱら人間の精神活動を利用しているようなもの(例えば、ビジネスを行う方法それ自体)も発明とはいえないと考えられています。
(3)ビジネス上の留意点~ビジネスの方法と特許発明
例えば、新しいビジネスの方法や、ビジネスのプロセスを効率化する画期的な手法・手順などを発案することがあるかもしれません。そしてこうした新しい方法で競争優位に立つべく、第三者に真似されないよう、特許による保護を受けようと考えるのはよく理解できます。
しかしながら、前述のとおり、自然法則の利用とはいえない、もっぱら人為的な方法論にとどまるようなアイディアは、通常は特許法上の「発明」とはいえませんから、それだけでは特許登録は困難です。
しかし、ある新規なビジネスの方法やプロセスの実行について、コンピュータ、ソフトウェア、ネットワーク、その他のIT技術を利用したメカニズムとして構成することができれば、全体として自然法則を利用していると認められ、特許の対象になる場合があります。
例えば、有名な例として、いわゆる「逆オークション特許」があります。これは「逆オークション」という、顧客が購入条件を提示し売手を選定する取引の仕組がミソですが、「条件付購入申込管理システム」という名称で、その仕組をウェブサーバ、ソフトウェア、ウェブページと組み合わせ、特許登録を得ています。
以上のとおり、新しいビジネスの方法や仕組みを考えた場合、IT技術(コンピュータ、ソフトウェア、ネットワーク等を組み合わせた手段)として、または何らかの装置として実現可能か否かを考えてみると、特許発明として該当することができるかもしれません。また、ご自分でそのようなアイディアが出ないような場合も、この点でいわゆるビジネスモデル特許の出願の経験が多い弁理士に相談するならば、よいヒントを貰えるかもしれません。
参考ページ:特許法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/tokkyo/index/
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