2013-11-12 未登録の周知商標と商標登録への対抗
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 未登録の周知商標と商標登録への対抗
知財高裁 平成24年11月29日判決
X社は、標準文字の「ECOMINI」という商標につき、指定商品を第12類(自動車・部品等)として出願し、登録を受けました。
しかし、ドイツの自動車メーカーBMWがこれに異議を申立て、X社の商標出願以前から日本国内で「MINI」ブランドで、「MINI」の後に他の欧文字を付加した名称を使用して自動車を販売してきたため、「MINI」の文字部分がBMWの自動車を表示する商標として日本の需要者の間に広く認識されているから、X社の商標登録は商標法4条1号10号に違反すると主張しました。
その結果、BMWの異議が認められてX社の登録が取り消されたため、X社が登録取消の取消を求めたのが本件です。
2 裁判所の判断
裁判所は、以下の理由でBMWの主張を認め、X社の商標の登録取消を維持しました。
- BMWの「MINI」ブランドは、昭和34年にイギリスの自動車メーカーが日本での販売を開始して以来、その後権利取得したBMWがコンセプト・デザインを承継しながら広く販売してきて、雑誌等でも需要者の間に高い評価を受けてきていること、テレビや新聞、ウェブサイト等での宣伝広告のほとんどに「MINI」「ミニ」の標章が表示され、グーグルで「MINI車」を検索しても上位100件のほとんどがBMWの「MINI」ブランドに関する内容であることなどから、少なくとも自動車に使用された場合、BMWの自動車を表示するものとして需要者の間に広く認識されているといえる。
- X社の「ECO MINI」を自動車に使用した場合、「ECO」は環境に優しいとの観念が生じるものの、それ自体の自他識別力は弱いから、上記のとおり自動車で「MINI」といえばBMWの自動車を表すと認識されている取引の実情からすると、「ECO」と結合していてもBMWをイメージし、混同するおそれがあるといえる。よって、X社の商標登録は商標法4条1項10号の不登録事由に該当する。
3 解説
(1)商標の不登録事由
商標法3条及び4条は、出願しても登録にならない商標、すなわち商標の不登録事由について定めています。その一つが、本件で問題となった、「他人の周知商標と同一又は類似の商標であって、同一又は類似の商品・役務に使用するもの」という4条1項10号の規定です。
同規定の趣旨は、ある商標が未登録だとしても、これがすでに周知となっている場合、これと類似の商標の登録を認めると、商品や役務(サービス)の出所(どの事業者の商品やサービスか)について需要者(ユーザー)の間で混同が生じるおそれがあり、これを防止する必要があること(出所の混同防止)、さらに、当該周知の未登録商標が築き上げてきた信用・利益を保護することにあります。
(2)自社のブランドなどが他者に登録されてしまった場合
新しい商品名やブランドを使用して、ある新商品やサービスを展開するというケースで、最初は今後の事業展開が見えないことから、商標出願を控える(あるいは商標出願を考えなかった)というケースは少なくないと思われます。
そして、その後新しい商品名での事業が軌道に乗って、当該商品が地域では知られてきたと思った矢先、第三者がこれと類似する商標を登録してしまうということもないとはいえません。
この場合これに対抗するすることは必ずし容易ではありませんが、第三者が当該商標を出願した際に、自社の商品名がある程度有名になっていた(周知となっていた)場合の対抗手段として、商標法4条1項10号に基づき当該商標登録の無効を主張することも検討の選択肢として頭に入れておくのはマイナスではないでしょう。
ここで同号の「需要者の間に広く認識されている」とは、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含むと解されています。また、この「需要者」は、必ずしも最終消費者に限らず、事業の形態に応じ、自社の取引先で足ります。
ですから、自社の商品が全国で売れていないからとか、一般消費者には有名ではないという理由で必ずしもあきらめる必要はないということになります。
なお、上のようなケースで、商標権者から差止請求等の権利の主張を受けた場合には、対抗手段として「先使用権」を主張できる場合がありますが、これについては別の機会に書きたいと思います。
参考ページ:商標法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/shouhyou/index/
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