2013-08-20 動画の投稿と改正著作権法30条の2

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1 今回の判例 動画の投稿と改正著作権法30条の2

東京地裁平成25年5月17日判決

 Xは、A社が米国で人気の総合格闘技の試合を撮影・編集した映像作品を、無断でウェブサイト「ニコニコ動画」にアップロードしました。

 Xは、プロバイダから、A社からの著作権侵害に基づく削除申立があった旨を知らされましたが、新たなアカウントを用いるなどして1年以上アップロードを続けました。

そこでA社は、Xが著作権(公衆送信権)を侵害したとして、Xに対し、A社が正規にインターネット配信のライセンス契約を結んでいたB社から取得していたライセンス料相当額の金額を、逸失利益として請求しました。

 

2  判決の内容

裁判所は、A社の主張を全面的に認め、著作権侵害に基づき、Xに対し損害賠償の支払いを命じました。

 

3 解説

(1)動画のアップロードと著作権

近年、動画を利用したマーケティングがますます注目されています。本件で問題となったニコニコ動画のほかYouTubeなどに代表される動画共有サイトを活用すれば、インフラのコストをかけずに広い認知を獲得することができ、検索エンジンの検索結果の上位に表示される確率も高まるなどのメリットがあると言われています。

ただ、注意しないと、うっかり誰かの著作権を侵害して警告やクレーム、さらには損害賠償請求を受け、信用を失ってしまうというようなことになりかねません。そこで、著作権侵害に関し、見落としやすいポイントをご紹介します。

(2)たまたま写り込まれた著作物の扱い

今回の裁判例のように、他人が作成した映像をそのまま投稿するのはさすがに違法だろうとの察しが付くと思います。しかし、これまで著作権法上の実務上厄介だったのは、写真や映像などに、背景として他者の制作したポスターや写真等、キャラクターが写り込んでしまうケースや、店舗の映像に、その店舗で使われているBGMなどの他者の音楽が意図せずに入り込んでしまうというケースです。

この点については、従前の著作権法の解釈を厳格に行えば、上のように音楽や写真などの誰かの著作物が動画の中にたまたま含まれている場合も、原則として著作権侵害になり得ます。

しかし、昨年の著作権法改正で、ある著作物を創作する際に別の著作物が軽微な部分に写り込まれた(あるいは撮り込まれた)場合(「付随対象著作物」)については、著作権侵害としないとする規定ができました(著作権法30条の2)。そのため、上のようなケースであれば、これらの規定の適用を検討することは有益でしょう。

著作権法30条の2の要件のうちポイントとなるのは、付随対象著作物が本来の対象と「分離することが困難である」という点と、「軽微な構成部分となるものに限る」という点にあります。

この点、具体的にどの程度の大きさなら「軽微な構成部分」といえるのか、「分離することが困難」というのが、どの程度の困難性を意味するのか、現時点では予測がつきません。しかし、メインとなる著作物の性質や、付随対象著作物が入り込んだ経緯、必然性、入り込みの量、付随対象著作物が鑑賞の対象となりうるか、分離の可否・労力・コスト・分離による当該著作物に与える影響等、もろもろの事情か著作権者の利益を不当に害することとなるか否かで判断されるのではないかと考えられます(なおここには筆者の私見が含まれています)。

もっとも、この規定については個別の事案に応じた判断の幅がある以上、少なくとも素人判断で「これは写り込みだから大丈夫」と安易に考えず、法律家への相談の上慎重に考えることが無難といえます。専門家であれば、事前に完全かつ精緻な予測はできないとしても、実務感覚に照らしたおおよその見通しと、ある程度のリスク判断については提供可能なはずです。

いずれにせよ、大切なポイントは、著作権が関係しそうなら必ず権利関係の確認を怠らないこと、といえるでしょう。

 

参考ページ:著作権解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/chosakuken/index/


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