2013-05-28 解雇紛争と解雇の前に行うべきこと

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1 今回の判例 解雇紛争と解雇の前に行うべきこと

東京地判平成24年7月10日判決

 システム開発会社のA社に入社したB氏は、平成14年、SEとしての能力不足等を理由に総合主管1級から3級へ降格となり、平成18年12月、長時間離席し業務を懈怠したことを理由に懲戒処分を受け、総合職から一般職へ降格となりました。

 その後、A社は、B氏を、平成21年6月に普通解雇としました。その理由は以下のとおりです。

(1)長時間離席し、職務に専念しなかった。
(2)特定の従業員に対する異常行動によって職場の環境を乱した
(3)セキュリティソフトを無断で無効にする等の、情報管理規定
  に違反した

 これに対し、B氏は、この解雇は無効であるとして、A社の労働者としての地位の確認、賃金の支払、慰謝料を請求し、訴訟を提起しました。

 

2  判決の内容

 裁判所は、様々な証拠に基づき、前記の解雇理由を認定した上で、さらに、長時間の離席を理由とした懲戒を以前に受けていながら問題点が改まらなかったことや、B氏が自己の行動を正当化する態度を変えず、今後もそれが望めないと認定し、これらの理由から解雇は相当であって、無効ではないと判断しました。

 

3 解説

(1)解雇事由に関する立証~客観的な証拠の必要性

 本件では、A社が、労働者B氏の異常行動や就業規則違反を多数の証拠によって立証することができ、解雇の無効性が否定されました。

 まず、離席の事実については、入退室に関するカードリーダの履歴といった証拠から認定され、他の社員に対する異常行動については、度重なる注意をしたことを示す電子メールや、同僚社員からのヒアリング記録といった証拠から認定されました。また、セキュリティ規程違反については、B氏のシステムへのログ等の分析資料から認定されました。

 以上のとおり、本件では、A社側に客観的な証拠資料があり、解雇理由をこれら証拠資料によって立証できたことが大きかったと考えられます。もしこのケースで、客観的な証拠が乏しく、ほとんどが「言った言わない」の問題となると、A社側が相当に厳しい立場に立ったことは想像できるところです。

 一般論として、会社としては、問題行動のある社員、就業規則への違反を繰り返す社員について、業務遂行態度や問題行動の改善を希望しつつも、最終的には解雇の可能性も念頭に置いている、ということはありえるものと思われます。

 そして、いざ解雇に踏み切らざるをなくなり、その社員が解雇を争ってきた場合、最終的にものをいうのは客観的証拠であるという点を念頭に置くのは重要なことです。それで、将来の法的紛争の可能性がないとはいえない問題社員に関しては、ある時期から、問題行為や規則違反行為を立証できる記録をできる限り収集し、保存するように努めることが重要となってきます。また、当該社員に対する注意や指導についても、口頭で諭した後、その内容を念のためメールで送信する、又は文書で渡す等、客観的な記録化に努めることができます。

(2)解雇に至るプロセスとしての懲戒処分

 本件では、問題行為の一つである長時間の離席について、A社は過去に懲戒処分を課しており、それでもB氏の行動が改まらなかったことが、解雇の無効性判断の理由として挙げられています。

 一般的に、ある問題行動や就業規則違反だけで、解雇が有効となると判断されるようなケースは多くはありません。この点、裁判所は、当該社員の問題行動に関し、会社が解雇に至るまでいかなる措置(注意指導、他の軽い懲戒処分)を取ったか、これに対して当該社員に改善が見られたのか否か、という「プロセス」を重要な要素と見ます。

 多くの会社が早い時期に解雇に踏み切って問題を早急に解決しようとするのは理解できなくはありませんが、かえって紛争を深刻化させ、年数のかかる訴訟などによって多大の人的・金銭的コストを強いられることになる可能性があります。

 それで、早い時期から、前記のように紛争時に訴訟に耐えられるだけの証拠化をどのように行うか、裁判所からの理解を得られるプロセスをどのように踏むべきか等を検討し、この点について労働問題に詳しい弁護士のアドバイスを受けることが結果的に紛争の拡大を防止することになると考えられます。

 

参考ページ:労働法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/


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