2013-03-05 定期建物賃貸借契約と説明書面

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1 今回の判例 定期建物賃貸借契約と説明書面

最高裁平成24年9月13日判決

 建物の賃貸人Aが、賃貸建物の賃貸借が借地借家法38条1項所定の定期建物賃貸借にあたり、期間の満了により終了したなどと主張して、賃借人Bに対し建物の明渡しを求めました。

 なお、AとBの間の定期建物賃貸借契約書には、契約の更新がなく、期間の満了により終了する旨の条項(「定期借家条項」)がありましたが、借地借家法の文言上は必要とされている、契約書とは別個独立の説明書面の交付はありませんでした。

 

2  判決の内容

裁判所は以下のように判断しました。

  • 借地借家法38条2項は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃貸人が、契約書とは別個に、定期建物賃貸借について説明した書面を交付した上、その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。
  • 紛争発生の未然の防止という同項の趣旨を考慮すると、上記書面の交付の要否は、個別具体的事情を考慮せず、形式的,画一的に取り扱うのが相当である。
  • したがって、本件においては、定期借家条項は無効である。

 

3 解説

(1)借地借家法上の定期建物賃貸借契約

 定期建物賃貸借契約制度が創設されてから年数も経ち、この制度は広く使用されるようになってきました。特に商業施設におけるテナント契約では、この定期建物賃貸借契約が主流であるというのが筆者の実感でもあります。

 そして、借地借家法38条によれば、定期建物賃貸借契約が有効とされるためには、書面により建物の賃貸借契約を締結するとともに、賃貸人は、この更新がない旨の特約を記載した「書面」を交付して説明しなければならないとされています。

 実務上も、定期建物賃貸借契約書のほかに、別途貸主において説明書を準備し、借主に交付している例が多いと思われます。

(2)法規制の趣旨と法の文理の遵守

 実務的に定期建物賃貸借契約を扱われる方はご覧になっていると思いますが、実際は、定期建物賃貸借契約書中の更新がない旨の規定と、別個に交付する説明書面の内容は全くまたはほとんど同一ということが多く、賃借人も定期建物賃貸借契約書を読めば更新がないことはよく分かるのだから、なぜあえて説明書面を別途交付する必要があるのか、実益に疑問を感じた方もおられると思います。

 しかしながら、借地借家法のように、契約の当事者間において力関係に差がある契約を規律する法律は、その力関係を是正し、社会的に見て不当に不公平な結果を招かないように一方当事者を保護するという理由から、特に力関係が強いとされる側(借地借家法では貸主)を様々な点で規制しています。そして、そのような規制については、法の趣旨からみて厳格な遵守が求められることが少なくありません。

 今回のケースでなぜ貸主が別個の説明書の交付を怠ったのか、その理由はともかく、契約手続中の簡単な一つの工程を省略することが、貸主にとってはダメージになったと思われます。それで、借地借家法においては貸主は、法の規定にきちんと沿った実務の運用がされていることを確認することは重要ではないかと思われます。

 また、本件とは離れますが、貸主が別個の説明書を交付しても、仮にこれを立証できない場合、同様に貸主な結果となってしまうおそれもあります。ですから、運用として、貸主が、別個の説明書面を交付する際に、説明書面を受領した旨の署名と押印を借主からもらうなどの対策も講じているかについての検討も必要かと思われます。



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