2012-02-09 高年法に基づく雇用継続制度
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
1 今回の判例 高年法に基づく雇用継続制度
岐阜地方裁判所平成23年7月14日判決
貨物自動車運送事業等を行うA社に雇用されていた社員Bは、組合活動を通じて、A社と長期にわたり係争関係にありました。
平成18年7月ころ、A社は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年法」)の改正を受け、労働者の過半数で組織する労働組合との労使協定(以下「本件協定」)により、継続雇用制度の対象者にかかる事項を定めました。ただし、本件協定には、継続雇用制度の対象となる高年齢者の具体的な基準は定められませんで
した。
A社は、本件協定に基づき、再雇用規程と再雇用・契約更新の基準を作成し、これらを労基署に届け出ました。再雇用基準には、「勤務意欲基準、勤務態度基準、品質関係基準、健康関係基準、職場配置基準、人事評価基準」の6項目のすべてをクリアする者を再雇用の対象者とするという定めがされていました。
Bは、定年後もA社で働くことを希望しましたが、A社は、Bに対し、品質関係基準、人事評価基準をクリアできていないとして、継続雇用できないことを通知しました。
これに対し、Bは、A社に対し、雇用契約上の権利を有する地位確認、賃金の支払等を求めて提訴しました。
2 裁判所の判断
裁判所は以下のとおり述べて、Bの請求を認めませんでした。
● 高年法9条1項の規定上、これに違反した場合の私法的効力を定める明文規定や、同項各号の措置に伴う労働契約の内容や労働条件について規定しておらず、多様な制度を含み得る内容となっており、直ちに私法上の効力を発生させるだけの具体性を備えているとはいえない。
● 高年法9条2項は、希望者であっても継続雇用制度の対象としないことを容認していること、高年法は、高年法65歳までの雇用確保については、その目的に反しない限り、各事業主の実情に応じた労使の工夫による柔軟な措置を許容する趣旨である。
● したがって、同項の効果として、「BとA社の間において、Bが自動的に継続的にA社から雇用されている状態が維持される」と解することもできず、「従前と同様の内容の雇用契約を延長する契約が成立した」と解することもできない。
● 以上から、A社における定年退職者は、A社により再雇用の対象として認められて再雇用契約が締結された場合に限り、労働契約上の権利を取得するにすぎず、再雇用を希望し、再雇用基準を満たしていても、再雇用契約が締結されない限り、定年後の労働契約上の権利を主張できる地位にはない。
3 解説
(1)高年齢者雇用安定法とは
同法は、急速な高齢化の進行に対応し、高年齢者の安定した雇用の確保等を図るために制定された法律です。
同法によれば、事業主は、
[a] 定年の引上げ
[b] 継続雇用制度の導入
[c] 定年の定めの廃止
のいずれかの措置を講じなければならないこととされています。
今回の判決にあるとおり、高年法は、会社に対し、特定の個々の労働者を継続して雇用する義務を負わせるもの(言い換えれば個々の労働者の会社に対する雇用を請求する権利を認めたもの)とは解されていませんが、この高年法に定める措置を取ること自体は事業主(会社)の公法上の義務であることは確かです。したがって、同法上の措置を取っていない会社は、この点で改善が必要であると考えられます。
(2)措置の内容・定め方は柔軟に行える
もっとも、高年法9条1項2号の継続雇用制度については、法でその内容が厳格に定められているわけではありませんので、措置の内容は会社の実情に合わせ柔軟に考えることができます。例えば、同条2項では、労使協定によって、継続雇用制度の対象となる高年齢者に関する基準を定めることが許容されており、基準が合理的なら、ある社員が希望しても雇用継続の対象としないことが可能です。また、労使協定で合理的基準を定めれば、職種別に異なる基準や管理職であるか否かによって異なる基準を定めることも可能であると解されています。
また、雇用形態についても、定年前と別にすることは可能であり、最低賃金などの雇用に関するルールの範囲内で、嘱託、パートタイムといった、労働時間、賃金、待遇などを、労働者の間で決めることができます。さらに、子会社やグループ会社へ転籍させることも一定の条件では可能と解されています。
中小企業の中には、こうした措置がまだ整っていないところもあるかもしれません。この点必要な点があれば改善が望ましいと考えられます。
参考ページ:労働法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/roumu/index/
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