2008-02-19 原価セール事件と独占禁止法
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
事案の概要
H18. 2.27 知財高裁判決
これはすでに前々回でご紹介した「原価セール」事件に関するものです。前々回では,「不正競争防止法」の論点を取り上げましたが,今回は,独禁法の問題について取り上げます。
あるドラッグストアAが,平成13年1月から5月にかけて「原価セール」を行いました。
具体的には,チラシに仕入価格を書き,さらに定価を書いた上で,仕入価格で(一部は仕入価格を下回る価格で),医薬品,健康ドリンク などを売りました。
これに対して,医薬品メーカBは,ドラッグストアAとの取引基本契約等が解除又は解約しました。A社は,B社による解除の効果を争っ て,A社がこの取引基本契約上の当事者の地位にあることの確認を求めるとともに,同契約に基づいて,A社がB社に対し平成14年2月 19日から同年3月2日にかけて発注した商品の引渡しを求めた訴訟です。
A社の行った「原価セール」が不正競争防止法又は独占禁止法・景品表示法に違反するか等が主たる争点となりましたが,平成16年2月 13日になされた原判決は,いずれもこれを否定し,B社の行った取引基本契約の解除ないし解約はその効力を生じないとして,A社の請 求をいずれも認める判決を出しました。
独禁法上のB社の主張は,Aの原価セール行為が,独禁法違反に違反するダンピング行為に当たる,という主張でした。
判決の概要
知財高裁は,Aの原価セール行為は,独禁法に違反するダンピング行為とはいえないとし,以下のように判断しました。
一般指定6項前段の不当廉売(ダンピング)に当たるというためには,正当な理由がないのに,商品などをその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあることを要する。
実際の仕入価格がチラシに表示されたものは,販売に要する諸経費の分だけ供給に要する費用を「下回る」価格で販売されたといい得るものの,「著しく」下回るものであったと直ちに認めることは困難である。
本件原価セールが実施されたのは,当時34店あった被控訴人の店舗のうち,7店であり,各店における実施期間は20日未満であった。この程度の期間の本件原価セールが「継続して」の要件を満たしていたとまで評価することはできない。
「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」についても,本件原価セールがA社の一部の店舗で,限定された期間だけ実施されたにとどまり,A社の店舗と競争関係にある小売店に本件原価セールを直接の原因とする損害が生じた証拠がないから,同項後段の不当廉売にも当たらない。
解説
【独占禁止法と不当廉売】
独占禁止法は19条等で「不公正な取引方法」を禁止し,公正取引委員会は,「一般指定」の中で,具体的にどんな行為が不公正な取引方法にあたるかを示しています。
不当廉売(ダンピング)は,公正取引委員会一般指定第6項において,次のとおり規定されています。
「正当な理由がないのに商品又は役務を,その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し,その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれのあること。」
つまり,問題となる廉売の態様としては,「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」する場合と,「その他不当に低い対価で供給」する場合の2つがあり,このような廉売によって,「他の事業者の事業活動を困難にするおそれ」がある場合に不当廉売に該当します。また,以上の場合でも,正当な理由があるときは,違法ではなくなります。
【不当廉売の判断基準】
不当廉売とは何かについては,(1)廉売の態様,(2)競争への影響,(3)正当な理由の3点から考慮することが一般的です。
(1)廉売の態様
不当廉売の典型的なケースは,「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給する場合です。
ここで「供給に要する費用を著しく下回る対価」とは,通常の小売業であれば仕入価格を下回るかどうかを一つの基準として考えられています。また,「継続して」とは,相当期間にわたって繰り返して廉売を行い,又は当該廉売を行っている販売業者の営業方針等から客観的にそれが予測されることをいいます。
また,前記のような典型的なケースでなくとも,仕入価格を多少上回る価格による場合,単発的な廉売であっても,商品の特性,廉売の目的・効果等の観点から「その他不当に低い対価で供給」にあたることもあります。
(2)競争への影響
問題となる廉売によって「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」が必要です。しかし,現に事業活動が困難になったことまで必要なく,諸般の事情から,「困難にさせる」蓋然性が認められる場合で足ります。
具体的には,廉売している事業者の事業の規模,事業態様,廉売商品の性質,数量,廉売期間,広告宣伝の状況等を総合的に考慮して,判断されます。
(3)正当な理由
上記(1)(2)の要件に当たる場合でも,「正当な理由」があれば,不当廉売とはなりません。
例としては,生鮮食料品,季節商品の見切り販売などがあります。また,きず物,はんぱ物等の瑕疵のある商品についても同様です。ただし,きず物等の廉売は,きず物であることを明示することが望ましいといえます。
【独占禁止法とガイドライン】
一般に,独占禁止法に関しては,公正取引委員会が,違反行為の未然防止に役立つよう,どのような行為が違反となるか,又はならないかについて,公正取引委員会のこれまでの運用を踏まえた考え方を,ガイドラインとして公表しています。
具体的には,不公正な取引方法としての前述の「一般指定」と,これについての運用指針が公表されています。
さらには,近年の取引の多様化,複雑化に対応し,各種の取引類型にそった独占禁止法の運用基準が公表されています。その一部を挙げ ると、以下のようなものがあります。
1)特許・ノウハウライセンス契約における公正な取引方法の規制に関する運用基準(平成元年2月15日)
2)共同研究開発に関する独占禁止法上の指針(平成5年4月20日)
3)フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について(昭和58年9月20日)
4)流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(平成3年7月11日)
いろいろな取引に独禁法が関係しているため,小企業経営者にであっても,運用指針等を一読しておくなら有益かもしれません。
ある程度何が書いてあるかを知っておくだけでも,もし何か問題のある事態にぶつかった場合,「何かおかしい」という感じ取り,専門家に相談に行くことによって,問題を未然に防いだり,早期に解決することが可能となるかもしれません。
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