2006-04-20 商標の類否判断基準
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
事案の概要
平成17年12月21日知的財産高等裁判所判決
ある信販会社S社が,「SANYO SHINPAN GROUP」と図形と組み合わせた商標を,指定役務を第36類「資金の貸付け」として,出願しました。
しかし,特許庁は,この出願を拒絶したため,S社は特許庁に不服の審判を請求しましたが,しかし不服は認められませんでした。特許庁の審決の理由は,先に登録された商標として「山陽信販株式会社」という商標(引用商標1)と,「AC 山陽信販」という商標(引用商標2)があるためということでした。
つまり,出願された商標は,引用商標と,「サンヨーシンパン」の称呼を共通にする類似する商標であり,役務(サービス)の出所について混同を生じさせるおそれのある商標あるという理由でした。
S社は,知財高裁に,この審判(審決)を取り消す裁判を起こしました。
判決の概要
【結論】
裁判所は,特許庁の審決には取り消す理由がないとして,請求を棄却しました。
【理由】
本願商標と引用商標を対比すれば,両者が外観において相違することは明らかであり,本願商標と引用商標とは,観念において比較すべきところがない。
しかしながら,本願商標と引用商標とは,「サンヨーシンパン」の称呼において共通する類似の商標というべきであり,当該称呼を生じさせる部分が自他役務の識別機能を果たすものとして一般の需要者に認識されるものと解されるから,本願商標と引用商標との間で,出所の混同を生ずるおそれを否定することはできない。
本願商標のうち「GROUP」の文字は,企業系列,企業集団を表す語として使用されているから,自他役務識別標識としての機能は弱く,需要者は,通常,「SANYO SHINPAN」の文字部分を自他役務の識別機能を果たすものとして認識する。
一方,引用商標1「山陽信販株式会社」の文字のうち「株式会社」の文字通常,自他役務識別標識としての機能を果たすものではないから,需要者は,「山陽信販」の文字部分を自他役務の識別機能を果たすものとして認識するものということができる。そして,「山陽信販」の文字部分からは「サンヨーシンパン」の称呼が生ずる。
そうすると,本願商標及び引用商標1,2からは,それぞれ「サンヨーシンパン」の称呼が生ずるとの本件審決の認定に誤りはなく,本件商標と引用商標とは,称呼において類似するというべきである。
解説
【他人と類似の商標~登録できない商標の一つ】
商標はどんなものでも登録されるわけではありません。商標法3条と4条では,登録を受けることができない商標について述べられています。
商標法4条1項11号は,「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務‥‥‥又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については,商標登録を受けることができない旨規定しています。
つまり,ある商標を登録しようとして出願しても,同一又は類似の商品やサービスに関して,同じ又は類似の商標が先に出願され登録されていると,自分の商標は登録されません。
では,どんな基準で,ある商標と別の商標が類似であると判断されるのでしょうか。
【商標の類似の3大判断要素】
一般に商標の類否の判断は,商標の
(1)外観(商標の外観そのもの)
(2)称呼(商標から導かれる発音)
(3)観念(商標から想起される観念)
を比較し,その具体的な取引状況に照らし,取引者及び需要者に与える印象,記憶,連想等から,両者の商標の間に混同のおそれがあるかどうかで決せられます。
例えば,判例に現れた 過去の例でいうと,以下のようなものがあります。括弧内は,判断の結論です。
(類似)『PRO-LEX』=『ROLEX』
(類似)『大森林』=『木林森』
(類似)『リスコートエイ』=『ビスコート』
(非類似)『ココ』×『CoCo(図形)』 これは,外観が著しく相違していたため,非類似と判断されました。
(非類似) 『DANDYL』×『dunhill』
今回の判例は,「SANYO SHINPAN GROUP」と「山陽信販株式会社」の両商標は,外観と観念の類似はないが,「サンヨーシンパン」という呼称が類似しており,両商標は類似していると判断されたわけです。
【商標の観察方法】
さらには,商標の類似を判断する場合,両者の商標を全体的に観察します(これを全体観察といいます。)。つまり,商標を個々の要素に分けて,要素ごとに類似を判断するのではなく,商標全体を比較します。
他方で,商標の中で,中心的な識別力を有する部分を抽出して対比することがあります。これを「要部観察」といいます。商標の類否判断においては両方の観察方法がとられます。商標の中には,識別力のある部分とない部分がある場合があるためです。
例えば,今回の判例でいえば,「SANYO SHINPAN GROUP」は「GROUP」の部分には識別力がないと判断され,「山陽信販株式会社」の場合「株式会社」の部分に識別力がないと判断されたため,「SANYO SHINPAN」と「山陽信販」の部分が比較されました。
そのほか,例えば,清酒において「菊正宗」「桃正宗」という商標を比較するとすると,「正宗」は慣用商標であり,清酒においては識別力を有さないと解されています。この場合,「菊」と「桃」を比較することになります。
【商標の早期出願の重要性】
この中で商標とは,端的にいえば「信用を保護する権利」であるといえます。商標は,使用すればするほど信用が蓄積されブランドとしての力が増し,ますます価値が出てきます。
そして,我が国では,ある商標を独占する権利は,出願と商標登録によって生じ,かつ原則として先願手技(早い者勝ち)です。それで,他人の商標と類似する商標は登録できないため,新しいビジネス又はブランドを立ち上げるときは十分な注意が必要です。
例えば,商標出願の前に第三者の登録状況を調べなかったために,その第三者から侵害であるとして責任を追及されるおそれがあります。また,ブランド展開を先に行った結果,第三者にその商標を先に出願されてしまい,やむなく別ブランドに切り替えざるを得なくなるといった結果も生じ得ます。
特に,一定期間の使用によって信用が蓄積された商標が使えなくなる,という事態に陥ると,先行投資が無駄になるばかりか,多大な出費を被り,かつ信用を失うことになる可能性があります。
そして,商標の類似の有無の判断は高度な専門的判断を要するものですので,上記のような判断基準のもとで自社で調査することも,下調べとしては有用ですが,重要な商標や,重要な商品・サービスが関係する場合,弁理士等の専門家に相談することが最善でしょう。
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