2006-01-25 会社分割と債務の承継
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
事案の概要
H17.10. 6 名古屋高等裁判所 平成17年(ネ)第182号
A社が,Bゴルフ倶楽部という名称の預託金会員制のゴルフクラブを経営していました。
C氏は,同ゴルフクラブに,預託金3200万円を預託して会員となりました。
その後,A社の会社分割によって,D社が設立され,Bゴルフクラブの名称を用いて同じゴルフ場を経営するようになりました。
それで,C氏は,D社に対し,返還期日が来た預託金3200万円の返還を求め,訴訟を起こしました。
主な争点は,
(1)会社分割により,D社は,A社の預託金返還債務を承継したか
(2)仮にこれを承継しないとしても,商法26条1項の類推適用により,上記返還債務を負うか
というものです。
判決の概要
裁判所は,以下のとおり判断しました。
【争点(1)について】
A社の会社分割に際して作成された商法374条に基づく分割計画書の記載から,被控訴人が本件保証金返還債務を承継したということはできない
【争点(2)について】
D社は,Bゴルフクラブの名称を続用してゴルフ場を経営しているから,商法26条1項の類推適用により,A社が負っていた預託金返還債務を負う。
解説
【会社分割とは】
会社分割とは,ある会社の営業の全部又は一部を,他の会社に承継させる行為です。何が承継され,何が承継されないかは,原則として,分割計画書又は分割契約書に従って決定されます。
会社分割の方法には以下のようなものがあります。
(1)新設分割(商法373条) 既存の会社(分割会社)がその営業の全部又は一部を新たに設立する会社(新設会社)に承継させる分割
(2)吸収分割(同法374条ノ16) すでに存在する他の会社(承継会社)に分割会社の営業の全部又は一部を承継させる分割
また,株式の割当の観点からは,以下のような方法があります。
(1)物的分割 会社の分割に際して新設会社又は承継会社に発行させる株式を,分割をする会社(分割会社)に割り当てる方法
(2)人的分割 会社の分割に際して新設会社又は承継会社に発行させる株式を,これを分割会社の株主に割り当てる方法
【商号の続用による債務の承継】
以上のとおり,会社分割においては,分割計画書に従って権利義務が承継されますが,例外もあります。
その一つは,商法26条1項の規定です。この規定は,営業の譲受人が譲渡人の商号を続用する場合に,譲渡人の営業によって生じた債務については,譲受人もまたその弁済の責めに任ずる旨を定めているものです。
そして,この規定は,会社分割の場合にも類推適用されるとされており,この判例でも,預託金返還債務は分割計画書に記載がないため当然に承継されないと判断されたものの,D社が,Bゴルフクラブの名称を使用し続けていたなどの事情から,A社が負っていた預託金返還債務を負うと判断されました。
【会社分割のメリットと営業譲渡との相違】
会社分割にはどんなメリットがあるでしょうか。
(1)簡易かつ機動的な事業再編成
営業譲渡が個別承継であるのに対し,会社分割が包括承継(権利義務のすべてを承継する)である,とうことです。
つまり,営業を移転するために営業譲渡を行う場合には,個別の債権者や契約当事者の同意を得ることが必要であり,手続が多数に上る煩瑣なものとなっていました。しかし,会社分割制度を活用すれば,営業の全部又は一部を包括的に(丸ごと)承継されます。この「営業」とは,営業用財産だけでなく,得意先関係,仕入先関係,販売の機会,営業上の秘訣,経営の組織等の経済的価値のある事実関係も含めた一定の営業目的のために組織化され,有機的一体として機能する財産をいいます。
つまり,過去の実績や信用を含めた営業全体が,分割計画書または分割契約書の記載に従って営業を移転させることが可能となり,機動的な事業の再編成が可能となりました。
(2)物的分割が容易になった
これまで新設会社に対して営業を移転するためには,現物出資という法形態がとられていました。しかし,現物出資には検査役の調査を要し,この調査に時間と費用がかかる上,会社設立が完了するまで営業を一時停止しなければならず,これが大きな障害となっていました。会社分割制度を活用すれば,このような問題を克服することができます。
(3)人的分割が可能となった
今までは不可能だった,設立会社・承継会社の株式をただちに分割会社の株主に対して交付することが可能になりました。
以上のとおり,機動的な会社分割は,事業再編成に大いに活用されていますし,今後もそれは続くと思われます。この制度は,大規模な会社だけでなく中小規模の会社にも利用可能な制度であり,企業の競争力強化の観点から活用を検討できるでしょう。それとともに,関連する規定に注意を払いつつ,リスクを最小限にする方策も必要です。
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