2005-10-27 株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬
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なお、このトピックは、メールマガジン発行日現在での原稿をほぼそのまま掲載しており、その後の上級審での判断の変更、法令の改正等、または学説の変動等に対応していない場合があります。 |
事案の概要
平成17年02月15日 第三小法廷判決
会社の従業員は,賃金規定に従って給料を支払いますが,会社役員の場合は,給料(正確には役員報酬)株主総会の決議が必要です(商法269条,279条1項)。
実際は,多くの中小企業では,大企業のように株主総会がきちんと開かれることもなく,役員報酬が決議されることもありません。
この裁判では,ある株主が株主総会決議を経ずに支払われてきた役員報酬の支払は無効であると主張しました。会社側は,訴訟後,あわてて株主総会を開き,事後的に,既に支払われた役員報酬の支払を承認する決議をしました。
では,役員報酬の支払は有効となるでしょうか。
判決の概要
【結論】原則として有効
最高裁判所は,以下のように判断しました。
株式会社の取締役及び監査役の報酬を株主総会の決議によって定めると規定している商法の趣旨目的は,取締役(会)の「お手盛り」の防止(つまり自分で自分の報酬を決めることの防止)と株主の利益保護などにある。
株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われた場合でも,後に株主総会の決議を経ることにより,事後的にせよ上記の規定の趣旨目的は達せられる。
本件決議に本件訴訟を会社側の勝訴に導く意図が認められるとしても,それだけでは上告人らにおいて本件決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると解することはできず,他に上告人らが本件決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると認められるような事情はうかがわれない。
解説
【中小企業と商法の遵守】
先に述べたとおり,多くの中小企業では厳密に商法の規定を守った運営がなされていないのが実情です。現行の株式会社は,比較的大規模な会社を念頭に置いたもので,大がかりな組織,複雑な手続が定められており,この実情も理解できなくはありません。新会社法が,会社の実情に合わせた機関設計ができるようにする理由の一つは,現行の株式会社の規制が多様な形態の会社の実態に合わないからという点にあります。
そのため,判例では,会社の些細な手続違反については,すぐに無効とするのではなく,商法の趣旨に反しない限り,手続違反を救済する判断をすることが多く見られます。
今回の判例も,「事後的な株主総会決議であっても,商法の趣旨に反しない」から有効としたわけです。
【手続違反と手続の遵守のリスクとコスト管理】
とはいえ,些細な手続違反は,会社の関係者間の関係が良好な場合は問題になることはありませんが,内紛が生じたりすると,会社に対立する側が,会社の手続違反を問題にし,これを訴訟での争点とすることがあります。そうした場合の訴訟対応コストは,決して軽視できないものでしょう。
また,手続違反が常に救済される訳ではなく,今回の判例も「信義に反する事情」がある場合は,別の結論となることもありえます。
後々の紛争リスクを考えれば,日常の運営手続をきちんとしておくことは,遙かに低いコストであると思われます。
例えば,定時株主総会の議事録は,記載事項は定型的なものが多く,さほど大がかりなものではありませんし,顧問税理士,弁護士などに下書きを作成してもらうこともできるかもしれません。特に新会社法では,複雑な手続がかなり簡素化されますので,手続の遵守もより容易になると思われます。
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