2015-07-07 キャッチフレーズの法的保護

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今回の判例  キャッチフレーズの法的保護

東京地裁平成27年3月20日判決

 英会話教材を販売するA社は、同じく英会話教材を販売するB社に対し、A社が販売する教材に関するキャッチフレーズが盗用されたとして、差止請求と損害賠償請求をしました。

 A社が盗用と主張するキャッチフレーズは、「音楽を聞くように英語を聞き流すだけ 英語がどんどん好きになる」といったフレーズを含む数個のフレーズでした。

裁判所の判断

 裁判所は、以下のとおり判断し、差止請求と損害賠償請求のいずれも否定しました。なお、A社は民法の不法行為も主張しましたが、今回は省略します。

● 「音楽を聞くように英語を聞き流すだけ 英語がどんどん好きになる」というキャッチフレーズは、平凡かつありふれた表現であるから、著作物とは認められず、著作権法で保護されるものではない。

● 商品等表示として不正競争防止法上保護されるためには、長期間にわたる使用や広告、宣伝等によって、当該キャッチフレーズが特定人の営業を表示するものとして需要者の間に広く認識され、自他識別・出所表示機能を獲得するに至っていることが必要である。

● この点、「音楽を聞くように英語を聞き流すだけ 英語がどんどん好きになる」というキャッチフレーズは、A社の広告の見出しの中でキャッチフレーズの一つとして使われているにすぎず、需要者は「スピードラーニング」という商品名をもって他の同種商品と識別しているから、当該キャッチフレーズがA社の営業を表示するものとして需要者の間に広く認識され、自他識別・出所表示機能を獲得するに至っているとはいえない。

解説

(1)キャッチフレーズの法的保護

 企業が自社やサービスのイメージを表すためにキャッチフレーズを打ち出し、宣伝に使用することは多いと思います。せっかく考えたキャッチフレーズを競業他社に真似されたくないと考えるのは当然です。では、キャッチフレーズは法律上何らかの手段で保護されるのでしょうか。

 この点、今回の事例でも結論的に著作権法、不正競争防止法とも否定されたことからも分かるように、良いか悪いかはともかく、一つの現実として、キャッチフレーズは法的に保護されにくいものである、という点は頭に入れておく必要があるように思います。それは、多くのキャッチフレーズが、商品やサービスの宣伝のためにその特徴を短く表現しようとするものであり、表現そのものに著作物といえるほどの「創作性」が認められることが少ないためです。

 もっとも、だからといって、他社のキャッチフレーズを安易にそのまま模倣してよいというわけではなく、こうしたことは避けるべきかと思います。というのは、裁判所は、厳密な意味では著作権や他の特定の権利で保護されないような場合も、社会通念上許容できないような「フリーライド」(他者の知的成果物へのただ乗り)については、民法上の「不法行為」として違法と判断することがあるからです。

 この点、キャッチフレーズではありませんが、新聞社・通信社が「Yahoo」に有料配信している記事の「見出し」を無断利用し「一行ニュース」として配信していたケースで、裁判所が不法行為と判断した例があります。本稿において過去に取り上げましたので、ご参照ください。
  参考 https://www.ishioroshi.com/biz/mailmag/topic/topic171010/

(2)商標による保護の可能性

 他方、一部のキャッチフレーズについては、商標として出願・登録できる可能性があり、この場合、他社の当該キャッチフレーズの使用について、商標権侵害を主張できる可能性もあります(ただし使用方法によります)。

 もっとも、商標の場合、いわゆる記述的商標(商品やサービスの内容や品質など一定の状態を普通の方法で記述する商標)が、原則として商標登録を受けることができない、とされていることを考えると、キャッチフレーズの商標登録についてもハードルが低いわけではありませんが、検討の価値はあると考えられます。

 例えばこの点、以下の商標は、キャッチフレーズ的な商標の登録例といえるかもしれません。

  「元気ハツラツ」(商標第4882442号)
  「Inspire The Next」(商標第4574995号等)
  「The Power of Dreams」(商標第4599911号)
  「子供達に日々希望と感謝の祈りを」(商標第3332419号)
  「お口の恋人」(商標第2080086号)

 それで、あるキャッチフレーズが、商品又はサービスとの関係で単なる販促活動に用いられるためのフレーズにとどまらず、他社との区別が可能な識別力のある「印」として認識されるような独特の個性あるフレーズなら、商標登録による保護を考えてもよいかもしれません。

参考ページ:商標法解説 https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/shouhyou/index/


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