会社の民事再生手続

民事再生の申立ができる場合とは

 本稿では、会社・法人の法的再生の一つの手段である民事再生について解説します。

 まず、どのような場合に会社が民事再生の申立が可能でしょうか。具体的には、会社が、支払不能、支払停止、債務超過といった「破産の原因たる事実の生ずるおそれがあるとき」または「債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」のいずれかに当てはまれば、民事再生を申し立てることが可能とされています(民事再生法21条1項)。

 なお、民事再生手続では、再生計画の認可に債権者(債権者数・議決権の両方)の過半数の同意が必要であり、債権者の理解及び協力を得ることが不可欠です。

 以下、それぞれの要件について簡単にご説明します。

民事再生開始の要件1~破産の原因たる事実の生ずるおそれがあるとき

 「破産の原因たる事実」とは、支払不能、支払停止、債務超過のいずれかにあたる事実であり、それらの事実の生ずるおそれがあるときが、民事再生開始の要件にあたります。

 支払不能、支払停止、債務超過の意味については、破産の要件のページをご覧ください。

民事再生開始の要件2~事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき

「事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」とは

 これは、債務者の財産をもって債務を完済することができない状態をいいます(民事再生法16条1項)。つまり、会社が、自身が持っている全財産を処分しても、債務を完済することができない状態ということです。

債務超過の判断

 実務的には、会社の貸借対照表上債務超過であれば、民事再生法上も債務超過と判断されることが一般的です。

 ただし、法律上は、債務超過の状態がある程度継続的である必要があり、一過性の事情によって一時的に債務超過が生じたとしても(例えば他の月は資産超過であり、ある月のみ特別な事情でバランスシート上債務超過に陥ってしまうような場合)、債務超過とはいえません。

 会社民事再生・法人民事再生に必要な費用の概要

費用の概要

 会社の民事再生を行うには、残念ながら少なくない費用が必要となります。以下、会社民事再生の申立に必要な費用について解説します。大雑把に申し上げると、民事再生を行うには、(1)裁判所に納める予納金と、(2)申立を代理する弁護士費用が必要となります。
 前記のうち、(2)は弁護士に依頼せずご自分で民事再生申立をする場合にはかからない費用ですが、(1)については民事再生手続費用として必要なものであり、これを裁判所に納めないと、民事再生を申し立てても、裁判所は民事再生手続を開始しません(ただし、一部の裁判所では予納金の分納を認める場合もあります)。
 
 

資金繰りと費用の確保

 会社の民事再生を行う場合、中小企業であっても、東京地裁の場合で最低200万円~数百万円、負債総額によっては1000万円以上の費用が必要となります。
 
 それで、早晩行き詰ることが明らかに見込まれる状況になり、しかし会社を再建したいという場合、無理な金策を繰り返し、ただでさえ乏しい資金を使い果たすならば、再生できる会社も民事再生ができなくなってしまいます。

 事業経営者としては、会社を法的にきちんと建て直すため、民事再生をすることができる程度の資金が残っている段階で、弁護士に対して方向性を相談することは重要です。

 もっとも、表面上資金が尽きたように見えても、必ずしも民事再生申立をあきらめる必要はありません。詳しいことをここで書くことはできませんが、何らかの方法で申立のための資金を確保する方法がある場合もありますので、この点からも弁護士に一度相談してみるとよいでしょう。

 民事再生申立の費用1~予納金

予納金とは

 予納金とは、民事再生申立の際に裁判所に収める費用です。

 裁判所は、申立を受けた民事再生について、手続を開始する場合、「監督委員」を選任します。この「監督委員」は、原則として裁判所が選ぶ、利害関係のない弁護士が就任します。また監督委員は、公認会計士を補助者として選任し、公認会計士が債務者の調査を実施します。
 

 そして、裁判所はその監督委員及び公認会計士に報酬を支払うことになりますが、この予納金は、この監督委員や公認会計士の報酬を確保するために使用されることになります。

予納金の金額

 予納金の金額はどの程度でしょうか。これは、負債額によってケース・バイ・ケースではあります。東京地裁では、法人の民事再生の予納金は最低でも200万円とされています。具体的には以下のとおりですが、これらは一応の目安であって、具体的な事情に応じて増額されることがあります。

債務総額 予納金額
5000万円未満 200万円
5000万円~1億円未満 300万円
1億円-10億円未満 500万円
10億円-50億円未満 600万円
50億円-100億円未満 700万円~800万円
100億円-250億円未満 900万円~1000万円
250億円-500億円未満 1000万円~1100万円
500億円-1000億円未満 1200万円~1300万円
1000億円以上 1300万円以上

 弁護士に依頼した後の道のり・アウトライン

 会社の民事再生申立を決意して、弁護士に民事再生申立を依頼したとします。この場合、どのような流れで事件が進み、どのような結果となるのかは非常に気になることでしょう。
 
 まずは、大雑把な流れをご説明すると、大筋以下のとおりです。

弁護士への相談

資料収集事情聴取・申立書類準備

事前相談・民事再生申立

保全処分発令・監督命令発令

監督委員選任

監督委員との打合せ・開始決定・債権調査

再生計画案提出

債権者集会の開催(1回~数回)

再生計画の認可決定・履行

終結・廃止決定

 民事再生申立の手続の流れ1~相談・依頼から申立まで

 以下、手続きの流れをやや詳細に解説します。まずは、弁護士に依頼してから、民事再生申立までの流れをご説明します。

弁護士への相談

 会社が民事再生申立を選択することは、通常はその会社自身だけで判断・選択できるものではありません。弁護士との相談が必須であり、場合によっては何度も打ち合わせを繰り返しようやく民事再生申立の選択に至ることも少なくありません。

 そもそも清算ではなく再建を選択できるか、再建を選択するとして自主再建ではなく民事再生申立を選択すべきか等は、以下の要素を考えて検討・判断します。

  • 手続開始後の事業継続の見通し
  • 手続開始後の収支予測
  • 破産した場合の予想配当率
  • 収益予測
  • 資金繰り予測
  • 債務者の事業内容
  • 危機に至った原因
  • 大口債権者・従業員の意向
  • スポンサーの有無
  • 他のスキームとの比較・選択
  • 手続にかけることのできる費用

資料収集

 民事再生申立の準備のため、必要な書類を収集・整理します。

 依頼を受けた弁護士は、主として以下のような書類を作成します。なお、これらの資料の多くは、依頼者の手元にある資料をもとに作成するため、依頼者による協力が必要となります。
  ◇ 月別過去1年分の資金繰り表
  ◇ 申立て後6ヶ月間の資金繰り表
  ◇ 事業計画

事情聴取・申立書の作成

 収集した資料から弁護士が事案を分析したうえで、依頼者と打合せを持ち、事業の開始から支払不能に至った経緯を詳細に聴取します。また、その際に、依頼者から申し出はないものの、書類・資料から存在が疑われる財産の有無と内容についても確認・聴取します。
 さらに、民事再生申立に当たり、債権者に対する公平な財産の分配を妨げるような事情、直近の一定の期間内に、依頼者が財産を処分したり隠匿したと疑わせるような事情がないか、等も聴取します。

 以上の事情聴取を経て、民事再生申立書を作成した上で、証拠書類を含めた一件記録を準備します。

 民事再生申立の流れ2~民事再生手続申立から開始決定まで

裁判所との事前相談

 法人の民事再生手続きの場合、できれば申立予定日の1週間前までに裁判所の担当部に連絡を入れて、事前相談をしておくということが実務上よくなされます。

 この事前相談で、申立書に不備があれば補充するように指摘を受け補充・修正したりして、申立予定日にスムーズに申立が受理されて保全命令等の必要な命令が出されるように段取りを組むことができます。また、この時点で予納金の額を教えてもらうこともできます。

申立・債務者審尋

 民事再生の申立があった場合は、裁判所は後述のとおり保全処分を命ずることができます(民事再生法第30条)。そして裁判所は、保全処分を出す前に、申立書や添付書面に加えて、債務者審尋として、会社の代表者や関係者から事情を聞くことがあります。

 この債務者審尋では、会社が申立に至った経緯、再生計画の方針、問題点などが尋ねられたりします。そのため、債務者審尋には、代理人弁護士のほか、会社の代表者に加え、事業内容や経理等に詳しい担当者も出席します。

保全命令の発令

 会社の民事再生手続においては、申立から開始決定まで、1~2週間の期間が空くことが少なくありません。それで民事再生法の規定により、裁判所は、再生手続開始決定がなされるまでの間、債務者に関し、弁済禁止、担保提供禁止の保全処分、不動産の処分禁止、借財禁止などの保全処分を出す扱いが一般的です。

 この保全処分がなされると、申立会社は、自己の債務の支払をしなくてもよいことになります。それで実務上は、再生手続開始の申立と同時に弁済禁止の保全処分を申し立てるのが一般的です。ただし、例えば10万円以下の少額の債権について、保全処分の中で例外が設けられるケースが少なくありません。

監督委員の選任

 監督委員は、裁判所の補助として、再生手続の開始要件の存否を調査し、開始決定に関する意見書を裁判所に提出するほか、再生債務者である会社の再生手続を監督し、再生計画案に関する意見書を裁判所に提出したりするなど重要な役割を果たします。

 実務上、民事再生の申立がなされた後、保全処分の発令と同時に、監督委員が選任される運用がされています。

債権者説明会

 民事再生申立をした後、実務上、会社として、債権者説明会を開催することが多く見られます。 裁判所からも、債権者説明会の開催の有無について尋ねられたり、開催について勧告を受けたりもします。申立から1週間前後に行うことが通常です。

 この債権者説明会は会社主催の非公式な会合ですが、監督委員も出席して、その状況を裁判所に報告します。さらに、監督委員は債権者説明会の状況を踏まえて、再生手続の開始が妥当か否かについての意見を裁判所に提出したりします。それで、実務上は重要な段階ともいえます。

 民事再生申立の流れ3~民事再生手続開始決定から終結まで

再生手続開始の決定

 民事再生の要件が認められ、かつ申立時に存在した問題点が解消された場合、裁判所は再生手続開始の決定をします(民事再生法33条1項)。そしてその際に、裁判所は、再生債権届出期間、再生債権の調査のための期間が定めます(民事再生法34条1項)。

 そして、再生手続開始決定後は、裁判所・監督委員の監督の下で再生の手続が行われることになります。

監督委員の職務・権限

 
 監督委員は、再生手続が原則として再生債務者である会社・法人の主導で行う手続であるため、問題が生じることのないよう後見的に関与して、再生手続を監督する立場にあります。
 その職務及び権限のうち、主なものは以下のとおりです。

権限の概要 権限の内容
再生債務者の行為に関する同意権(法54条2項)

下記の行為を行うには、監督委員の同意が必要です。

(1)  再生債務者の有する不動産、債権について譲渡、担保権の設定その他一切の処分

(2)  財産の譲り受け

(3)  貸し付け、借り入れ及び保証

(4)  債務免除、権利放棄

否認権の行使

否認権とは、再生債務者が開始決定前にした、会社財産の処分や特定の債権者に対する債務弁済等の行為の効力を否認する権利です。

裁判所の許可に代わる共益債権化の承認

再生手続開始前の資金の借入、原材料の購入その他事業の継続に不可欠な行為をする場合に生じる相手方の請求権を共益債権化することの承認を、裁判所に代わってなすことができます。

開始決定に関する意見書、再生計画案に対する意見書の作成・提出

監督委員が再生手続きを監督して手続の公正さを確保し、債権者の信頼を得ることが期待されています。

再生債務者の財産等の調査

財産目録及び貸借対照表の作成

 再生債務者である会社は、民事再生手続開始後遅滞なく、その有する一切の財産について、再生手続開始時における価格を評定し、この評定に基き財産目録及び貸借対照表を作成して裁判所に提出します。なお、裁判所が必要と認めるときは、財産の評定にあたっては、評価人を選任することができます(民事再生法124条第1項~3項)。

 その趣旨は、再生債務者である会社が履行可能な再生計画案を作成するために、まず再生債務者の財産状態を正確に把握することが必要不可欠であるという考え方からです。

報告書の作成

 再生債務者である会社は、民事再生手続開始後遅滞なく、再生手続に関し必要な事項に関する報告書を裁判所に提出します(民事再生法125条1項第1号~4号)。この報告書には、再生手続開始に至った事情、再生債務者の業務・財産に関する経過や現状、その他必要な事項を含めます。

 この報告書は、財産評定に基づいて作成された財産目録・貸借対照表とあわせ、再生手続開始から2か月以内に裁判所に提出します(民事再生規則57条1項)。

再生計画案の作成

 再生債務者である会社は、裁判所の定めた期日までに再生計画案を作成し、提出します。

 再生計画案においては、再生債権のうちどの程度の金額について免除を受け、残額の債権についてどのような方法で弁済を行っていくのかを明らかにすることが主たる内容です。
 
 弁済の方法としては、再生債務者である会社が事業を継続し、その収益から弁済する方法もあれば、スポンサーを見つけて事業譲渡をし、その譲渡代金から弁済する方法などがあります。

 なお、弁済期間は、法実情は、特別の事情がある場合を除き、再生計画認可決定確定の日から10年を超えない期間で定めるべきものとされています(民事再生法155条3項)。しかし、実務上は、5年~7年とされることが多いといえます。

 

債権者集会・再生計画案の議決

 民事再生手続開始決定日から数か月後(通常は3か月程度の後)、債権者集会が開かれます。
 
この債権者集会において、再生計画案を決議します。債権者集会のほか、書面決議に付する方法もあります(法169条2項)。

 再生計画案を可決するには、(1)債権者集会に出席した議決権者の過半数が同意し、かつ(2)議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者が同意することが必要です(法172条の3)。なおこの「議決権」とは、債権額とほぼ同じものと理解して大きな間違いはないと思われます。
 

再生計画の認可

 再生債権者の決議によって再生計画案が可決された場合には、裁判所は、所定の不認可事由がない場合、再生計画の認可決定を行います(民事再生法174条1項)。

 そして、所定の不服申立期間(民事再生法9条)が経過すると、この認可決定を受けた再生計画が確定します(民事再生法176条)。

 

再生計画の履行

 債権者集会において再生計画案が可決された場合、再生計画の認可決定がなされます。再生債務者は、再生計画に沿って事業を行い、再生計画を履行します。

 他方、当初の再生計画を履行することができなくなった場合、再生計画の変更について、各債権者の同意を取り付けることにより対処するか(法187条)、若しくは再度、民事再生手続の申し立てを行わなければなりません。
 

終結決定

 再生計画の履行が終了すると、民事再生手続の終結決定がなされます。



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