会社破産・法人破産のQ&A
前のページ 会社破産手続のメリット・デメリット ┃ 次のページ 破産ができる場合
本稿では、会社の破産に関して生じる種々の疑問・質問のうち、主なものについて解説します。
破産を決定するまでの段階・全般についての質問
手元にまとまったお金がありませんが、弁護士に依頼することはできないでしょうか
結論
必ずしもそうではありません。
解説
今手元にまとまった資金がないとしても、必ずしも諦める必要はありません。
例えば、早晩破産せざるをえないのであれば、通常は今後金融機関への返済を続けてもほとんど意味がありませんので、金融機関への返済を止めてしまうことを検討できます。そうすると、これまでは返済のために手元に資金が残らなかった状況であったところ、それを止めることで、次に入金される売掛金から従業員の給与等を支払った余剰から、弁護士費用やその他の申立費用が捻出できる場合があります。
このように、返済を想定しない状況で資金繰りを考えたりすることによって、またその他の方法で、資金が捻出できないか検討できます。
会社の自己破産に株主が反対しています。破産はできないでしょうか
結論
法的には不可能ではありません。
解説
会社の自己破産の申立の決定は、取締役会(非設置会社では取締役の過半数)が行い、株主の承諾は不要です。ですから、株主が反対していても、法的には会社の自己破産は可能です。
もっとも、可能であれば会社の事情を十分に説明し、理解を得るほうが望ましいとはいえます。
社長(代表取締役)が行方不明です。自分は取締役ですが自己破産の申立は可能でしょうか
結論
法的には不可能ではありません。
解説
会社破産の決定については、取締役会で決議(取締役会非設置会社の場合過半数の取締役の決定)を行うことが通常です。ただし、お尋ねのような事情で、破産申立について取締役会決議を得ることが難しい場合でも、個々の取締役が破産の申立を行うことが許されています。これを「準自己破産」といいます(破産法19条1項2号)。
ただし、残っている取締役が、会社の帳簿等を入手でき、資産・負債の状況等について把握しているという事情が必要であり、そうでないと手続を進めることは困難といえます。
債権者との関係に関する質問
特別にお世話になっている一部の債権者にだけ返済することはできますか
結論
行うべきではありません。
解説
社長が特別にお世話になっている取引先とか、個人的な知り合いであるとか、親族であるということで、破産が近づいているにもかかわらず、それらの方々には迷惑を掛けたくないので返済を続けたい、という気持ちは理解できなくありません。
しかし、そのような一部の債権者に対してのみ返済を続ける行為は、偏頗(へんぱ)弁済として、後々大きな問題となる可能性があります。裁判所はそのようなアンフェアな行為を最も嫌いますので、厳しく追求を受けることにもなります。
それで、そのような一部のみへの返済を独断で行うことは行うべきではありません。
支払えないので破産をしたいのですが、取引先に迷惑をかけたくありません
結論
取引先への迷惑を最小限にする方策を考えるべきです。
解説
お世話になってきた取引先に迷惑を掛けたくないという気持ちは当然のことです。しかし、倒産状態で支払えないのであれば、遅かれ早かれ何らかの形で迷惑をかけることになります。
この点、同じ「支払えない」という状況でも、取引先にとっては、ズルズルと事態を放置され、挙句の果てに夜逃げのような形にされるよりは、きちんと破産手続を取ったほうが、貸倒処理ができ、その債権について見切りをつけることができるなど、まだメリットがある、ということは珍しくありません。
ですから、責任ある経営者であれば、破産といった形できちんと清算することが、経営者としての最後の責任であるといえると考えます。
破産をすると債権者から厳しい督促は受けないのでしょうか
結論
弁護士に依頼すれば、そのようなことはまずありません。
解説
弁護士に破産手続きを依頼すると、弁護士は、全債権者に対し、依頼を受けた旨を通知します。その後は、債権者が会社やその代表者に対して督促などを行うことは禁止されます。
実際、会社の債権者であれば、まず殆どのケースで、全債権者からの督促はなくなると考えて差し支えありません。
法人破産と代表者個人に関する質問
代表取締役である自分は会社とともに破産が必要でしょうか
結論
必ずしも必要ありません。ただし、債務がある場合、会社とあわせて破産をするほうが望ましい場合が少なくありません。
解説
代表取締役というだけの理由では、会社と同時に破産をしなければいけないわけではありません。代表取締役であっても負債がなければ、あるいは何らかの手段で弁済が可能なら、自己破産は不要です。
ただし、日本の実務慣行上、会社が借入を行う際に代表取締役が連帯保証人となっているケースが非常に多いといえます。そしてその負債額は、代表取締役個人が返済できることは稀です。
この場合、代表取締役が、会社と同時に破産申立をすることは望ましいといえます。というのは、会社と別の手続で代表取締役が破産申立をする場合、費用がまったく別に発生しますが、代表取締役の破産を会社破産と同時に行う場合、費用は通常は1回分で済むことが多いからです。
自分は社長として連帯保証しています。その債務はどうなるのでしょうか。
結論
債務は当然にはなくなりません。それで、多くの場合、社長も連帯保証人として、会社の破産と同時に破産しなければなりません。
解説
会社が破産の手続きを行ったとしても、それだからといって、ご自分の連帯保証債務がなくなるわけではありません。そうなると、会社の債権者は、連帯保証人に対して、請求をすることは当然のことです。
しかし実際問題、会社が破産してしまうと、他に有力な収入源がない限り、連帯保証人として会社の債務を支払うのは難しいものと考えられます。
それで多くのケースでは、会社の破産とあわせ、個人としても自己破産の手続きを行う必要があります。自己破産の結果、「免責」という決定を裁判所から受けると、その時点で、意に反して連帯保証債務を履行する義務はなくなります。
なお、個人としての破産手続を先延ばしにする方もおられますが、望ましくありませんん。会社の破産と同時に個人の破産を進めることは、効率がよいこともさることながら、別々に行うよりは費用を抑えることができるからです。
会社が破産した場合、社長である自分は新しい仕事をしてよいのでしょうか
結論
差し支えありません。
解説
会社が破産する以上、その会社の仕事を行うことは当然できません。しかし、ご自分の今後の生活のため、新たな仕事を探すことは問題ありませんし、そうする必要があります。
別の会社に就職することもできますし、あるいは、個人事業として仕事をすることも妨げられるわけではありません。
ただし、破産手続が終了するまでは、破産管財人や代理人弁護士との打合せ、債権者集会等への出席、その他管財業務への協力で、平日に一定の時間は取られますので、極端に忙しすぎる仕事は避けたほうがよいかと思われます。
破産申立後終結までの質問
破産手続きにかかる時間・期間はどれくらいでしょうか
結論
ケース・バイ・ケースですが、短ければ3~4か月、通常は半年から8か月です。
解説
この期間は、申立までに行う準備の程度、また、会社の規模や破産管財人が行う業務の量、破産管財業務に含まれる問題点等によって、非常にばらばらです。
ただし、会社にめぼしい財産もなく、事務所の明渡も完了しており、従業員も既にいない、というケースでは、3が月~4か月で終わることが珍しくありません。また、若干管財業務があるケースでも、中小企業であれば、半年から8か月というケースが多いと思われます。ただし、年単位でかかることも珍しくありません。
もっとも、会社の代表者の方が、管財業務に協力するために比較的時間を割く必要があるのは、通常は申立までの準備の期間と、申立後1~2か月ということが多いため、また、債権者からの督促も特にないため、時間がかかること自体が現実に大きな支障になることはあまりありません。
破産管財人とはどんな人で、何をするのでしょうか
結論
破産管財人は、裁判所から選ばれた、破産した会社の財産を全面的に管理・処分する権限を持つ人で、現在はほぼ例外なく弁護士が選ばれます。
解説
破産手続開始決定と同時に、破産管財人が裁判所によって選任されます。破産管財人は、破産した会社の財産について全面的に管理する権限を持ち、現在はほぼ例外なく弁護士が選ばれる運用がなされています。
その職務及び権限のうち、主なものは以下のとおりです。
破産財団の占有・管理・処分 | 会社の財産管理、評価査定、破産申立会社に対する書証を受け継ぐ |
否認権の行使 | 否認権とは、破産者が開始決定前にした、会社財産の処分や特定の債権者に対する債務弁済等の行為の効力を否認する権利です。 |
破産債権の確定 | 債権者が届け出た債権を認めるか否かを決定します。 |
破産債権者への配当 | 会社に財産がある場合、債権者に対して平等に分配します。 |
破産者宛郵便物等の管理 | 破産会社宛の郵便物は、破産管財人のところへ転送されます。申立時に申告しなかった隠し財産や債権者の記載漏れが、郵便物転送により判明することがあるためです。 法人に加えて代表取締役等も一緒に破産する場合、代表取締役個人宛の私信等も管財人に転送されます。管財人が差し支えないと判断すれば、管財人が確認した後返却してもらうことができます。 |
債権者集会がとても不安です。どのように対応すべきでしょうか
結論
代理人弁護士がいれば過度に心配することはありません。
解説
少なからぬ方々が描く債権者集会のイメージは、多数の債権者が集まって、社長に対し、口々に厳しいことばで経営責任を問いただす、針のむしろのような場面かもしれません。
しかし、実際に裁判所で行われる債権者集会は、そのようなことはまずありません。基本的にある程度社会的影響や地域で影響のあった会社を除き、債権者集会に出席する債権者のほうが実は少数です。
債権者は、基本的に、破産管財人である弁護士が管財業務を報告し、裁判所が必要な事項を決定する、という手続が中心です。債権者から破産管財人や裁判所に質問が出ることもなくはありませんが、少なくとも、社長が直接質問を受けることはまずありません。
万一そのようなことがあっても、同席している代理人弁護士が適切に対応します。それで、過度に心配する必要はありません。
前のページ 会社破産手続のメリット・デメリット ┃ 次のページ 破産ができる場合
法律相談等のご案内
弊所へのご相談・弊所の事務所情報等については以下をご覧ください。
メールマガジンご案内
弊所では、メールマガジン「ビジネスに直結する判例・法律・知的財産情報」を発行し、比較的最近の判例を通じ、ビジネスに直結する法律知識と実務上の指針を提供しております。 学術的で難解な判例の評論は極力避け、分かりやすさと実践性に主眼を置いています。経営者、企業の法務担当者、知財担当者、管理部署の社員が知っておくべき知的財産とビジネスに必要な法律知識を少しずつ吸収することができます。 主な分野として、知的財産(特許、商標、著作権、不正競争防止法等)、会社法、労働法、企業取引、金融法等を取り上げます。メルマガの購読は無料です。ぜひ、以下のフォームからご登録ください。
バックナンバーはこちらからご覧になれます。 https://www.ishioroshi.com/biz/mailmag/topic/ |
ご注意事項
本ページの内容は、執筆時点で有効な法令に基づいており、執筆後の法改正その他の事情の変化に対応していないことがありますので、くれぐれもご注意ください。