1.3 「発明者」とは~特許の実体的要件
特許法上の「発明者」の意味
特許法の原則
特許法の原則は、「特許を受ける権利」や「特許権」は、原始的には、発明という事実行為を行った個人(自然人)に帰属するというのが大原則です。
このことは、会社の従業員が「職務発明」を行った場合も同様です。それで、「職務発明」であっても、従業員である発明者に帰属した特許を受ける権利を、使用者(会社等)が承継するためには、会社は相当の対価(補償金)を支払う必要があります。
そして、会社内の「発明」については、大なり小なり複数の従業員が関係することが多く、誰が(どんなことをした人が)発明者となるのかということが重要となります。
そして、「発明者」が誰かについては、特許明細書に記載されていればただちに「発明者」と認められる訳ではありません。
発明者の認定についての裁判所の考え方
この点、裁判所の一般的な考え方は、特許法にいう発明者について「真の発明者(共同発明者)といえるためには、当該発明における技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要 である。」というものです(東京地裁平成17年9月13日判決)。
例えば、前記東京地裁判決は、以下のような者は発明者には当らない、としました。
* 発明者に対して一般的管理をしたにすぎない者(単なる管理者)
(例)具体的着想を示さずに、単に通常の研究テーマを与えたり、発明の過程に
おいて単に一般的な指導を与えたり、課題の解決のための抽象的助言を与
えたにすぎない者
* 発明者の指示に従い,補助したにすぎない者(単なる補助者)
(例)単にデータをまとめたり,文書を作成したり,実験を行ったにすぎない者
* 発明者による発明の完成を援助したにすぎない者(単なる後援者)
(例)発明者に資金を提供したり,設備利用の便宜を与えたにすぎない者等
発明者の効果
特許法においては、発明者の認定は以下のような効果や影響を及ぼします。
発明者の権利
発明者は、発明をすることにより、特許を受けることができる権利を取得します(特許法29条1項)。ただし、特許を受ける権利は、譲渡・移転することができます(特許法33条1項)。会社が特許権者となれるのは、発明者たる従業者から譲渡を受けられるからです。
非発明者や無権利者による出願
前述のとおり、発明者は真実に発明した者に限られます。そのため、発明者でない者や、発明者から特許を受ける権利を承継していない者が出願すること(これを「冒認出願」といいます)は特許法上許されません(特許法49条6号)。
また、冒認出願にかかる特許が誤って登録された場合でも、その特許は無効とされます(特許法123条1項6 号)。
発明者が取るべき対策
以上を考えると、発明者自身としては、「技術的思想の創作行為に現実に荷担した」こ とを立証できるよう、日頃から証拠を残しておく必要があります。
例えば、日々の研究において、研究ノートなど、日付とともに、自分で得た着 想を詳細に記録し、さらに,開発研究過程においても、実験内容、データ、分析 過程等を、詳細に取ることができます。
そして、誰からどんな指示を受け、また共同研究者の誰がどんな役割を果たしたか、また誰にどんな指示をしたか、と いった記録も取ることができます。そして、自分用の研究ノートを自分で保管し ておくことも、可能なら行うことできます。
他方、会社側にとっても、これはメリットとなります。例えば米国では、発明 者個人の権利を保護するため、出願人は発明者でなければなりません。そして、 この発明者の規定が厳格であり、発明者を偽った場合、特許が無効となる場合が あります。ですから、発明者の厳格な認定は、会社側にとっても利益となると考えられます。
共同発明と特許法における取扱
共同発明とは何か
共同発明とは、2人以上の人が実質的な協力をなすことにより完成した発明をいいます。
技術が高度化・複雑化の一途をたどる近年では、また特に企業組織では、1人の個人が単独で発明を完成するよりも、複数の人が共同して発明を完成する場合が多いといえます。また、大学と企業、企業同士、研究機関と企業など、複数の機関でなされる共同研究などで、複数の人が発明を共同でなすことも少なくありません。
共同発明となる場合
では具体的に、どんな場合に共同発明となるのでしょうか。
共同発明でいう「実質的な協力」とは、発明者の定義の際にも書いたとおり、「技術的思想」(=発明)の創作に実質的に関与したことを意味します。言い換えれば、技術思想の創作自体に関係しない者、研究を管理していた管理者や、補助的な作業をした者は共同発明者とはならないことが多いと考えられます。
また、発明の成立過程は、「着想の提供」と「着想の具体化」の2投階に分けることができます。この場合、提供した着想が新規な技術思想であるという場合、着想者は共同発明者となると考えられます。ただし、着想者がその着想を具体化することなく(発明として完成していない段階で)公表又は公知化した場合であって、その後、別の者がその着想を具体化して発明を完成したというケースでは、着想者は発明者にならないことが多いと考えられます。
他方、新しい着想を具体化し、当業者が実施できるような段階にした者(発明を完成した者)は、共同発明者となることが多いと考えられます。ただし、その具体化の方法自体が、当業者に自明である場合を除きます。
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