1.1 特許法上の「発明」とは~特許の実体的要件
特許発明の実体的要件のアウトライン
ここでは、特許法上の「発明」の意味、つまりどんな発明が特許になるかを解説します。特許法においては、一般的意味の「発明」がすべて特許登録されるわけではなく、一定の要件があります。
まず実体的要件のアウトラインは以下のとおりです(ただし、そのほかに手続的要件もあります)。
- 特許法上の「発明」であること
- 産業上の利用性を有すること
- 新規性を有すること
- 進歩性を有すること
- 先願の発明であること
- 出願後に公開された先願の明細書に記載された発明でないこと
- 公序良俗または公衆の衛生を害するおそれがないこと
以下、各要件について簡単に見てみることとします。
特許法上の「発明」とは
まず、特許法でいう「発明」とは何をいうのでしょうか。
この点特許法では、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法2条第1項)と定義されています。
そしてこの「自然法則」とは、自然界において一定の原因によって一定の結果をもたらす科学的な法則を意味するとされています。
それで、ゲームのルール自体や計算方法といった人為的な取り決めとか、経済法則といった自然法則以外の法則を利用したものは、特許法上の発明とは認められません。また、自然法則に反すると考えられる発明(「永久機関の発明」など)も同様です。
なおこの点で問題となるのは、ビジネスの方法や手法が特許となりうるかということです。この点は、ビジネスモデル特許の欄で取り上げます。
産業上の利用可能性
また、「産業上利用できるもの」でなければなりませんので、「治療方法」は特許とはなりません。ただし、新しい治療方法のための治療機器、器具であれば、特許となる可能性があります。
新規性・進歩性
また、「新規性」といい、これまでに世の中に公表されたり、実施されたことのない発明でなければならず、「進歩性」といい、今までの発明に基づいて、当業者(発明が属する技術分野の通常の知識を有する人)であっても容易に発明できたものとはいえない必要があります。
しかし、「こんなものは特許にならないだろう」と思っていても、実は特許性があるものもあります。一度あきらめずに弁理士などに相談してみるとよいでしょう。
1.2 「ビジネスモデル」特許・ビジネス方法と特許
基本的な考え方
事業を行っている際に、新しい技術を開発したり既存の技術を改良したりする場合に生み出されるものについては、特許法上の「発明」に該当することが多いと思われます。
他方で、新しいビジネスの方法や、ビジネスのプロセスを効率化する画期的な仕組みなどを発案することもあるかもしれません。そしてこうした新しい方法・仕組みを第三者に真似されないよう、特許による保護を思い浮かべるのは自然な発想であるといえます。
しかしながら、「特許法上の発明の意味」の欄のとおり、自然法則の利用を伴わない単なる人為的な方法論にとどまる場合には、基本的には特許法上の発明とはいえないという点に留意する必要があるように思われます。
ハードウェア・ソフトウェアとの組合せによる特許性の獲得
ただし、工夫次第ではすぐにあきらめる必要がないこともあります。
例えば、ある新規なビジネスの仕組を、コンピュータ、ソフトウェア、ネットワーク、その他の装置を協働させた具体的手段として実現し、全体として自然法則を利用していると認められる場合、特許の対象になりえるからです。これが世間で一般に言われている「ビジネスモデル特許」です。
例えば、特許庁は、以下のような発明は、特許法上の発明に該当するとしています(もちろん他の要件が充足されているか否かは別問題です)。
種々の商品の売上げを予測するためにコンピュータを、
売上げを予測しようとする日を入力する手段、
予め過去の売上げ実績データを記録しておく売上げデータ記
録手段、
予め変動条件データを記録しておく変動条件データ記録手段、
予め補正ルールを記録しておく補正ルール記録手段、
過去数週間の予測しようとする日と同じ曜日の売上げ実績デ
ータを売上げデータ記録手段から読み出し平?して第1の予測
値を得る手段、
変動条件データ記録手段から商品の売上げを予測しようとす
る日の変動条件データを読み出し、該変動条件データに基づき
補正ルール記録手段に記録された補正ルールの中から適用すべ
き補正ルールを選択する手段、
適用すべき補正ルールに基づき第1の予測値を補正して第2
の予測値を得る手段、及び
第2の予測値を出力する手段、
として機能させるための商品の売上げ予測プログラム。
その理由は、種々の変動条件と補正ルールに基づいて売上げ実績を予測するという処理が、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的な手段により実現されているからであると説明されています。
それで、新しいビジネスの方法や仕組みを考えた場合、コンピュータ、ソフトウェア、ネットワーク等を組み合わせた手段として実現可能か否かを考えてみることができるかもしれません。あるいはこの点で弁理士に相談するならば、よいヒントを貰える場合もあることでしょう。
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