5.1.3 特許侵害の要件~特許の実施行為とは
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特許侵害の要件
第三者や競合他社の製品が一見自社の特許発明を使っているように見えたとしても、特許侵害と即断することはできません。特許侵害か否かの判断にはしばしば、技術的に、また法的に難しい論点が絡むことがあります。以下、特許侵害の判断についての基礎的な考え方をご説明します。
特許権者は、特許法によって、「業として特許発明の実施をする」権利を独占できる旨が定められています(特許法68条[条文表示])。したがって、特許権を侵害する行為とは、第三者が当該独占権を侵害すること、つまり、特許権者の許諾なく、「業として特許発明を実施する」ことをいいます。
言い換えれば、特許権の侵害行為とは、(1)「業として」、(2)「特許発明」を、(3)「実施し」、(4)その実施について「権原がない」ことが必要といえます。
そこで以下、上の各要素について簡単にご説明します。本ページでは、(3)「実施し」についてご説明します。(1)「業として」、と(2)「特許発明」については、こちらをご覧ください。また、(4)の、実施について「権原がない」ことについては、こちらをご覧ください。
特許発明の「実施」とは何か
「実施」の概要
特許発明の「実施」とは何をいうのでしょうか。この点については、発明の種類によって、特許法が定めています(特許法2条3項[条文表示])。具体的には以下のとおりです。
物の発明
その物の生産、使用、譲渡、輸出若しくは輸入、譲渡の申出等
方法の発明
その方法を使用する行為
物を生産する方法の発明
その方法を使用する行為、その方法により生産した物の使用、譲渡、輸出若しくは輸入、譲渡の申出等
実施行為独立の原則
特許法には、「実施行為独立の原則」という原則があります。つまり、ある製品は、「製造」→「卸売」→「小売」→「使用」というプロセスを経ることが少なくありませんが、ある製品が特許侵害品である場合には、「製造」「卸売」「小売」「使用」のいずれもが、「業として」なされている限り原則として特許権の侵害に該当することになります。
そのため、特許権者は、特許侵害品の製造者に対しても、卸売業者に対しても、小売業者に対しても、またこれら全てに対しても、原則として特許権の行使(差止請求や損害賠償請求)ができるということになります。
「修理」と実施行為
基本的な考え方
特許の実施行為との関係で問題となりやすいのは、「修理」や消耗品の交換の行為です。ある特許製品(侵害品ではない特許の実施品)のユーザーが、これを修理したり消耗品を交換する行為が、特許の侵害行為になるか否かが問題となります。
この点一般的には、特許発明の主要な構成に対応する主要な部品を交換するなどして、修理等の域を超えて実施対象を新たに生産するものと特許法上評価される行為は侵害行為と評価され、そうでない場合は侵害行為とは評価されない、と解されています。
裁判例
例えば有名な判例に「インクカートリッジ事件」(最高裁平成19年11月8日判決)があります。これは、インクジェットプリンタ用のインクタンクに関する特許権を有しているメーカーの製品で、使用済の製品にインクを再充填するなどして製品化したものを輸入・販売していたというケースです。
裁判所は、「特許製品につき加工や部材の交換がされ、それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは、特許権者は、その特許製品について、特許権を行使することが許される」と述べました。そして具体的には、リサイクルメーカーの「製品化の工程における加工等の態様は、単に費消されたインクを再充てんしたというにとどまらず、使用済みの本件インクタンク本体を再使用し、本件発明の本質的部分にかかる構成を欠くに至った状態のものについて、これを再び充足させるものであるということができ、本件発明の実質的な価値を再び実現し、開封前のインク漏れ防止という本件発明の作用効果を新たに発揮させるもの」である、という理由で、特許権侵害と判断しました。
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