4.3.2 特許侵害と損害賠償の考え方
特許権を侵害した場合に請求しうる、また侵害者が責任を負う損害賠償の内容や金額はどのように考えるのでしょうか。この点、特許法においては、損害額の算定方法を複数定めています。具体的には以下のとおりです。
- 特許法第102条1項に基づく請求[条文抜粋]
「損害額」=「侵害者の譲渡等数量」×「権利者の単位あたりの利益」 - 特許法第102条2項に基づく請求[条文抜粋]
「損害額」=「侵害者がその侵害の行為により受けた利益額」と推定 - 特許法第102条3項に基づく請求[条文表示]
「損害額」=「実施料相当額」
損害賠償算定方法1~特許法第102条1項による算定
基本的な考え方
特許法第102条1項[条文抜粋]による損害額の算定は以下のとおりです。
すなわち、特許権侵害者が侵害品を譲渡したときは、その譲渡した商品の数量に、特許権者が、侵害行為がなければ販売することができた商品の単位数量あたりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者の使用の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者が受けた損害の額とすることができるという規定です。
簡単にいえば、要点は以下のとおりです。
「損害額」=「侵害者の譲渡等数量」×「権利者の単位あたりの利益」 |
相互補完関係の存在
特許法38条1項の請求を行うには、侵害品と特許権者の商品との間に、「侵害行為がなければ販売することができた」という関係(相互補完関係)があったことを特許権者が主張・立証する必要があります。
もっともこの点、学説の多数は、特許権侵品と特許権者の商品との間で市場における競合があればよいと考えており、かつその競合については、特許権者の商品は特許実施品には限定されないと考えています(東京高裁平成11年6月
15日判決)。
他方、その「競合」については、特許権者の商品は特許実施品であることが前提となっているように読める裁判例もあります(東京地裁平成14年10月9日判決)。
販売することができない事情
考え方
また、譲渡数量の全部または一部を特許権者が販売することができないとする事情があるときは、その事情に相当する数量に応じた額を控除します。
こうした「事情」は侵害者側が立証する必要があります。その事情の中には次のようなものが含まれます。
- 競合商品の存在とその影響
- 侵害者の営業努力
- 販売業態の差
- 侵害品の特徴や性能・価格などの優位性
裁判例
この点に関しては、例えば以下のような裁判例があります。
東京地裁平成12年6月23日判決は、原告製品、被告製品、他社製品のシェアを認定し、被告の販売数量のうち一定割合のものについては、被告の侵害行為がなくとも、他の企業が販売し、原告が原告製品を販売することができないという事情があったと判断しました。その上で、損害額の算定から当該割合分を減じました。
また、大阪地裁平成12年12月12日判決は、原告と被告との製品の価格差に7倍から50倍の差があること、当該製品についてはコストが重要な要素となっていることを考慮し、被告が販売した製品数量の7割は、原告において販売することができないとする事情があると判断しました。
損害賠償算定方法2~特許法第102条2項による算定
特許法第102条2項[条文抜粋]による損害額は、侵害者がその侵害の行為により利益を受けているとき、その利益の額を特許権者等が受けた損害と推定するという規定です。
簡単にいえば、要点は以下のとおりです。
「損害額」=「侵害者がその侵害の行為により受けた利益額」と推定 |
なお、裁判例・通説は、特許権者自身が製品の製造・販売自体を行っていない場合には、特許法102条2項の適用がないとすると考えています。なぜなら、同項の規定は、権利者がその製品を製造したり販売したりしたことにより得られたであろう利益(逸失利益)の額を推定する規定だからです。
損害賠償算定方法3~特許法第102条3項による算定
基本的な考え方
特許法第102条3項[条文表示]による損害額については、特許権者が、特許権を侵害した者に対し、特許権の実施料(ライセンス料)相当額の金銭を、自己が受けた損害としてその賠償を請求することができるというものです。
簡単にいえば、要点は以下のとおりです。
「損害額」=「実施料相当額」 |
なお一般に、本条に基づく損害額は低額になりがちなので、訴訟実務では、特許法102条1項又は2項の請求が認められない場合の予備的な請求として主張することが少なくありません。
実施料相当額算定の要素
特許法第102条3項に定める実施料相当額については、以下のような諸般の事情を考慮して認定されます。
- 当該特許権の実施許諾例等
- 業界相場
- 特許発明の内容
- 他の構成の代替可能性
- 侵害品の販売価格、販売数量、販売時期
- 侵害者の努力
- 市場における当事者の地位
損害不発生の抗弁
また、いわゆる損害不発生の抗弁が特許法第102条3項に基づく請求において認められる余地があるのか、議論があります。
この「損害不発生の抗弁」とは、商標侵害についての最高裁判決(平成9年3月11日判決)が述べたものです。つまり同判決は、侵害者が損害の発生があり得ない旨を抗弁として主張立証したときは、使用料相当額の損害(商標法38条3項)も生じていないとして当該損害の賠償の責めを免れることができる場合がある、と判断しました。
ただし、損害不発生の抗弁が特許法第102条3項に基づく請求において認められる余地があるのかについては、学説上見解が分かれています。
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