1.6 新しいタイプの商標~立体商標

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立体商標制度とは

立体商標とは

 立体商標とは、立体的な形状を商標として登録し保護するものです。それは、商標が、商品やサービスの出所を示す「印」として機能するところ、ケンタッキーのカーネルおじさん、不二家のペコちゃん人形などのように、立体的形状が「印」として機能する場合があるからです。

 これは、平成8年商標法改正によって、商標法2条1項[カーソルを載せて条文表示]に「立体的形状」が含められて認められるようになったものです。

立体商標として認められるもの

 立体商標として登録が可能なものにはどのようなものがあるでしょうか。法文上は「立体的形状」とあるだけで、特に制限はありません。

 ただし、商標とはそもそも、「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」などですので(商標法2条1項)、立体商標として認められるものとしては、主として以下のようなものが含まれます。

  • 商品そのもの
  • 商品の包装
  • サービスの提供の用に供する物
  • 広告として使用する広告塔
  • 店舗の形状

立体商標のメリット

 立体商標を登録するビジネス上の利点の一つとしては、リリース前に意匠として出願ができなかった場合に、商標権としての立体的形状の保護を検討できるところです。

 もっとも、他社が同一又は類似の立体的形状を採用してきた場合、これが「商標としての使用」として自社の立体商標権が主張できるのか、という点は難しい問題がはらみますが、少なくとも、立体商標があれば、他社への大きな牽制とはなります。

 また、意匠権の保護が設定登録から20年であるのに対し、商標権は事実上半永久的に存続させることができますから、立体的形状を「ブランド」として捉え、これを永続的に保護するという観点からは商標権にメリットがあります。

立体商標が登録されるための基本的な条件

 立体商標も商標の一種です。 したがって立体的形状が商標として登録されるためには、商標として機能していなければなりません。そして商標の基本的機能としては、「自他商品識別機能」(自己の商品を他の商品と識別する機能)と、「出所表示機能」(商品の出所を示す機能)があります。

 この点、同じ立体形状であっても、それがどのような用途や場面で使用されるかによって、出所識別機能の有無や強さは変わってきます。

 そこで以下、立体商標の種類ごとに具体的な登録例も交えながら簡単にご説明したいと思います。

 

立体商標の種類と登録可能性・登録例

 同じ立体形状であっても、立体商標の種類ごとに登録を受ける可能性は異なります。以下代表的な種類ごとに登録例をご紹介します。

立体広告物といえるもの

商標としての性質と登録可能性

 例えばケンタッキーフライドチキンの店頭にあるカーネルおじさんの人形といったサインポストや立体広告物といえるものは、その出所を強く示すものであり、生来出所識別機能を持っている商標であるといえます。

 したがってこの類型の商標については登録可能性が高いといえます。具体的には以下のような事例があります。

大阪食いだおれ人形

第4365296号(商標権者 株式会社くいだおれ)

ペコちゃん人形

第4157614号(商標権者 株式会社不二家)

カーネルサンダース人形

第4170866号(商標権者 ケンタッキーフライドチキン・インターナショナル・ホールディングス・インコーポレーテッド)

平面商標と立体商標の組み合わせ

商標としての性質と登録可能性

 立体的形状の中に、文字、図形といった平面商標が組み合わせられたものも立体商標として扱われます。

 この場合には、特許庁は、平面商標が商品やサービスの出所を表示する識別標識としての態様で用いられているものと認識できる場合には、立体商標として識別力を有すると扱うとされています。具体例としては以下のようなものがあります。

ガソリンスタンドの店舗

第5181517号 (商標権者 出光興産株式会社)

コンビニエンスストアの店舗

第5272518号 (商標権者 株式会社ファミリーマート)

液体塗り薬の容器

第4158508号(商標権者 小林製薬株式会社)

ウイスキーのボトル

第4175123号(商標権者 サントリーホールディングス株式会社)

商品の形状そのもの

商標としての性質と登録可能性

 商品などの立体的形状が、出所識別機能や自他商品識別力を持つことは、通常はありません。それは、商品の形状は、その機能や性質によって、また需要者に美観を与えるために決定されるものである上、商品の出所を示すのは通常は商品名やブランドだからです。

 それでまず、ある立体的形状が、「商品等の形状そのもの範囲を出ない」ものである場合、登録は認められません。例えば、その形状が、商品等の機能や美感に資する目的のために採用されたと認められる場合です。

 また、ある形状が、「極めて簡単で、かつ、ありふれた立体的形状の範囲を超えない」ものも、登録は認められません(以下に、特許庁が「立体商標の識別力に関する審査の具体的な取扱いについて」において掲げる具体例を引用しています)。



 

 なぜなら、これらの形状は、商標が備えるべき商品の出所を示す「印」としては機能していないと考えられるからです。

 したがって、特に商品の形状自体が立体商標として登録を受けるためには、商品の機能上必然性がない、かなり特殊・特徴的な形状である必要があると考えられます。

 例えばこの点、前述のウイスキーのボトルの立体商標(第4175123号)については、同じ会社が、ロゴなしのボトルの形状のみで立体商標を出願したことがあります(下図)。しかしボトルの形状のみでの立体商標については、最終的に登録を得ることができませんでした。この点からも商品の形状のみでの登録の可能性の低さが読み取れます。

例外的に登録が認められる場合

 もっとも、形状自体にはただちに商標として登録できるほどの識別力がないとしても、同じ形状を長年にわたり継続して使用すること(永年使用)により、消費者がその形状とその出所(メーカーなど)を結びつけることができるようになるに至ったと認められる場合には、登録が認められることがあります(商標法3条2項)。

商品の形状が立体商標として登録された事例
ランプシェードの形状

第5825191号(商標権者 ルイスポールセンエイ/エス)

バイクの形状(スーパーカブ)

第5674666号(商標権者 本田技研工業株式会社)

チェアの形状

第5446392号(商標権者 カール・ハンセン&サン ジャパン株式会社)

商品の容器の形状に登録が認められた例
コカ・コーラのボトル

第5225619号(商標権者 ザ・コカコーラ・カンパニー)

ヤクルトの容器

第5384525号(商標権者 株式会社ヤクルト本社)

立体商標と侵害判断

 ある立体商標と類似する立体的形状が使用されていた場合、どのような判断基準で当該商標権の侵害の有無が判断されるのでしょうか。

 この点については、公刊されている裁判例が少ないため、必ずしも確立されているわけではありませんが、以下若干の裁判例をご紹介したいと思います。

エルメス・バーキン事件(東京地裁平成26年5月21日判決)

事案の概要

 原告であるエルメス社は、以下の写真(左)に示された面を含む立体商標権(商標登録5438059号)を有していました。他方被告は、右下の写真のような商品を販売していました。そして裁判所は、結論的に商標権侵害を認めました。

立体商標における類否の判断基準
一般的基準

 裁判所は、商標の類否の一般的な判断基準が、立体商標にも適用される、と述べました。具体的には以下のとおりです。

  • 商標と標章の類否は、商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべき
  • そのために、外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察し、具体的な取引状況に基づいて判断する。
  • 外観、観念又は称呼のうち類似する点があるとしても、他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって、何ら商品・役務の出所の誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては、これを類似の標章と解することはできない
立体商標の外観の類否判断の方法

 裁判所はさらに、立体商標の特殊性に照らしたその外観の類否判断の方法につき判断を示しました。

 具体的には、立体的形状は、一時にその全体の形状を視認することができないから、見る者が主として視認するであろう一又は二以上の特定の方向(所定方向)を想定し、当該所定方向から見たときに視覚に映る姿が同一又は近似する場合には、原則として外観類似の関係がある、と述べました。

 また、所定方向が二方向以上ある場合には、いずれか一方向の所定方向から見たときに視覚に映る姿が同一又は近似していれば、外観類似の関係があると判断しました。

事案への適用

 裁判所は、同案件においては、所定方向を「正面」と認定した上で、原告の商標と被告商品の形状を比較して類似していると述べました。他方、上部や側面については所定方向とはいえず、これらにある相違は、外観の類否に影響しない、と述べました。

同判決の問題点

 もっとも、同判決がどの程度の先例としての価値があるのかについては、疑問を呈する見解もあります。まず同案件においては、被告は代理人弁護士に委任せず、いわゆる本人訴訟で口頭弁論にも出席しませんでした。それで、十分な審理がされた判決ではない、という見方があります。

 具体的には、以下のような論点が被告から示された場合、裁判所がどう判断したか、という点で議論がなされています(以下はその一部です)。

 もっとも、本件のような行為が許されると、著名なブランドの価値が希釈されること(ダイリューション)、 コストをかけずに著名なブランドにただ乗りするという効果を生むこと(フリーライド)などの問題点があります。この点については、立体商標の侵害という問題で解決するよりも、不正競争防止法2条1項2号が活用されるべきではないかといった指摘もされています。

「商標的使用」に該当するか

 判決が認定しているとおり、被告のウェブサイトにおいては、「香港発ユニークブランド『GINGERBAG(ジンジャーバッグ)』」、「ナイロン素材の…ジンジャーバッグ」、「イメージを…デジタルプリントで表現し、…普通のナイロンバッグとは違ってラグジュアリーで楽しい商品」、「ナイロン素材に本革表面柄をプリントし、リアリティを生かしたユニークなだまし絵デザインのバッグ!!…香港発ブランド!!!」等の表示がされていました。

 こうした取引の実情を考えると、需要者は、被告の商品をエルメスの商品ではないことを認識していて購入していたのではないか、そうすると被告の商品の形状は、商標としての使用(出所を識別する機能を持った使用)とはいえないという反論が可能ではないかという指摘がなされています。

出所の混同のおそれの有無

 被告がサイト上で「ジンジャーバッグ」とい う名称で売り出していること、香港ブラ ンドのナイロン製で、プリントで質感を表現してい ると明確に謳っていること、被告商品と原告商品の価格差が 50倍程度であることといった取引の実情を考慮すると、被告商品をエルメスまたはその関連会社が出社であると需要者が考えることはないのではないか、そうすると、本件では商品の出所の誤認混同のおそれが生じないのではないか、といった指摘もなされています。

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